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第29話

樹優side あの子がきゅーさんに触れたときズキンと胸が傷んだ。自分で仕向けたくせに勝手だなって思う。 もう答えは出てるようなもんなのに俺も俺で素直に認められない。 きゅーさんが彼の手を握ったとき思わずやめてって叫びそうになった。 きゅーさんは俺のことが好きなんでしょ?他のやつと一緒に行かないよね…俺じゃないやつに触れないで… 可愛い若い子に言い寄られてぐらつくような人ではないとわかっているはずなのにやはり不安になる 彼がパートナーのことを愛しているのはわかっているのに… 実際彼に言い寄ってた男たちにはパートナーがいたのだ。けれど彼の魅力に惹きつけられて彼と関係を持った人ばかり…どんなに愛している人がいても彼の笑顔に虜になるのだ だからきゅーさんがはっきりと断ってくれてホッとした。 やはりこの人は他の人とは違うのだ…だからこそ俺と一緒に居ていいわけないのに俺はこの人の隣を誰にも譲りたくないって勝手に思っていて…矛盾した自分の心にもやもやとするけれど… 認めた方がきっと楽になれるしきゅーさんのことだ。本当に大切にしてくれるだろう。 けれど今の関係の形が変われば終わりが訪れる可能性だってあるはずだ。今は自惚れでなくきゅーさんに愛されている自信はある。だからこそそれが怖い。この人を失うことが恐ろしい…俺に自分を愛していいと言ってくれた人… 始めこそただの痴漢だったけどもう彼なしではいられないくらい俺はこの人に染まってしまった 「樹優」 俺を呼ぶ優しい声。抱きしめてくれるときの温もり… これを、他の人が…そう思うと…痛くて痛くてたまらない 「樹優?どうかした?疲れちゃったかな?」 「ん…今日は沢山甘やかして?」 「いいよ」 その笑顔も大好きなのに…言えない 「樹優…愛してる…」 そう切なく呟く祈るような声も…全部全部独り占めしたくて… 「きゅーさん…」 けれどそんなことは言えないから唇を塞ぐ。 こんなこといつまで続けられるかな?いつまで俺に飽きないでくれるかな? きっといい返事を出さなければずっと…けど…それでいい? 一緒にいることが幸せ過ぎて… 「樹優…」 俺を撫でる大きな手が暖かくて… ポロポロと涙が溢れる。最近はそれが酷い。きゅーさんはきっと俺が何か悩んでいて不安になってるってことには気付いているけれどそれがまさか自分を好きすぎて困ってるとは思ってないだろう 「樹優…俺といるの…きつい?」 そんなわけないのに…苦しそうに呟く 「違う…そうじゃない…ほんと…最近忙しくて疲れてるだけだよ。きゅーさんがきついんじゃないの?」 「俺は…こう言ったら怒るかも知んないけど…樹優が弱ってるときに俺を隣においてくれることが嬉しい」 ほらね…俺が苦しくないように答えを返してくれる…このやり取りでほっとするのだ。

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