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第32話
見せられたチケットは高級旅館の二泊三日のチケットだった。
「交通費は自費になるんだけど…泊まるのもかなり大変だし…ってお前はこんくらいなんでもねぇかもしれないし泊まったこともあるかもしんねぇけど…」
確かにこの宿には子供の頃何度も泊まったことはあるとてもいい感じのとこ。けど親父はあまり贅沢をしたがらないのでその宿でも一番値段の低い部屋に毎度泊まってた。このチケットで指定されている部屋は一番いい部屋で俺は見たことない。
そういや初めて泊まった日旅館側は驚いてたっけ…元々名前聞いて部屋は任せると言われ取ってた部屋では納得しなかった親父に。
親父は俺たちが泊まるよりその日たまたま新婚旅行で来てた感じのいい夫婦にお願いして部屋を変わってもらったんだ。それも相手が全く気にしない理由を勝手につけて。
そのご夫婦からは未だに手紙がよく来る。
「本当にいいのか?」
「いいよ。嫁も新谷にあげてくれってお前ご指名だしな。家の嫁未だにお前のこと大好きだからな。妬けるぜ」
こいつの奥さんとは大学時代に知り合った気心の知れた数少ない女友達の一人だ。さっぱりした性格ですごくモテだけど本人はどこ吹く風だった。
就職してこいつと一緒に飲みに行ったときたまたま出会してこいつに必死にお願いされて渋々紹介したのだ。紹介に嫌々ながら応じた彼女はこれまで出会ってきた男とちょっと違うこいつに興味を惹かれ今は互いにこっちが恥ずかしくなるくらいべた惚れだ。
「期限はあるし平日指定なんだけど…」
「その方があいつも休みが取りやすいかもしれないな」
「何か変化があるといいな」
「そんなのいいんだって。ありがとう」
………
そんなやり取りがあったのだ
「樹優。休み取れそ?」
「うん。丁度店の改装を考えてて店休むつもりだったんだよね。オーナーもそうしろって言ってるし大丈夫」
オーナーという人との関係も知っているからそこだけは複雑なんだけど…樹優を…樹優の人格を保ってくれていた人と言うことには間違いない。
会わせて貰ったこともあるが器のでかい紳士だった
柔らかく笑うとこなんかは樹優と少し似ているかもしれない
そうして旅行計画を立ててそれに合わせ俺も有給が取れたので子供みたいにワクワクしながらその日を待った
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