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第3話
久遠がどこかしらショックを受けているような様子を見せたので、クラス担任と相談した結果、俺が家まで送っていくことになった。
体操服に着替えた久遠が、帽子を目深にかぶり、うつむいたまま足早に歩いている。それに俺がついていく格好になったが、案外俺が傍にいる方が目立っているような気がして、申し訳ない気分になった。
久遠の自宅のマンションに着く。ここで俺の役目は終わり……と思ったのだが、久遠が目に見えて焦りだす。なんでも、マンションのキーカードを今日は持って出てこなかったらしい。
そこで母親に連絡を入れたところ、返ってきたのは仕事ですぐには帰れないという返事だった。
「あ、お世話になっています。久遠君のクラスの副担任の、伊豆島 と申します」
久遠と電話を替わってもらい、母親と話をする。散々母親に謝られた後で、どうするかという話になった。母親の帰宅時間は、午後十時を越えるそうだ。父親は出張で今日は帰ってこないらしい。
ふと思いつき、久遠に確認してみる。
「なんなら先生のとこに、来るか?」
久遠は、しばらくもじもじとした後、コクンと頷いた。
「もしよろしければ、私の家で夜までお預かりしましょうか。すぐ近くですし」
その提案を、久遠の母親は遠慮の言葉をいくつか口にしながらも、「ありがとうございます、先生、よろしくお願いします」と言って、あっさりと受け入れた。
※
「何もないところだけどな」
久遠を部屋の中に招き入れる。ダイニングテーブルしかないキッチン。ベッドとテレビしかない寝室。ただの1DK、それが俺の家だ。
「ちょっと待ってろ。洗濯するから」
久遠から汚れた服を受け取り、洗面所にある洗濯機へと放り込んだ。
ダイニングにもどると、久遠が手を体の前で合わせ、少し不安げに部屋を見回している。
「座ってていいぞ」
お茶でも出そうと冷蔵庫を開けた。と……
ぽとぽとぽとぽと
水が零れ落ちる音。振り向くと、久遠の体操服のズボンから、雫がしたたり落ちている。
「おいおい、マジかよ」
思わずつぶやいてしまった。
それを聞いた久遠が、身を固くする。そしてうつむき、肩を震わせる。
「ご、ごめんなさい」
「と、とりあえず、こっちだ」
久遠の手を引き、急いで風呂場に連れていった。一旦、ダイニングに戻り、雑巾で床を拭く。
なんで俺がこんなこと……学校ならともかく、トイレはすぐそばにあるだろ……
あらかた拭き終わり、風呂場に戻ると、久遠はズボンを濡らしたまま風呂場の中で立ち尽くしていた。目から涙があふれている。
「ほら、大丈夫だから、とりあえず脱げ」
体操服のズボンと、せっかく学校で着替えたはずの下着を脱がし、かるく水で洗った後、追加で洗濯機に放り込む。
「ちょうどいいや。シャワー、浴びろよ」
そう言ったものの、久遠は動かない。仕方なく、上も脱がしてやろうと思い、体操服に手を掛けた。
「あっ」
久遠が小さい声を上げる。その瞬間、俺の背筋にぞくっとした痺れが走った。
いやいやいや……
相手は男の子だ。まったく俺、何してんだろ……
外で遊ばないのだろう、夏なのに肌は随分白い。折れそうなほど細い久遠の裸体が、俺の目の前に現れた。
浮いたあばらに、ピンク色の二プルが蕾のように咲いている。ふと、下に目をやると、久遠のおちんちんが硬く勃っていた
「シャワー、できるだろ?」
お湯を調節しながら聞いてみる。しかし、久遠はまだ突っ立ったままである。
「あのなぁ」
という声を出しては見たが、久遠はそれでも動かない。
とりあえず俺もワイシャツとスーツパンツを脱いで、濡れてもいい姿になった。
「分かった、分かった、洗ってやるよ」
手にソープをつけ、泡立ててから、久遠の背中に塗っていく。
「は、あ」
俺の手が久遠の肌を撫でる度、久遠の口から小さな喘ぎ声が漏れた。それが妖艶で、なんとも言えない気分になる。
「先生、濡れちゃう」
「気にすんな」
「脱げば……」
久遠がそこで言葉を止めた。お風呂場に、シャワーの音だけが響き渡る。
「あ、ああ、そうだな」
男同士、別におかしくは……とは思うものの、どこか気恥ずかしく思いつつ、俺も裸になった。
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