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第10話

「これでお前たちに内蔵されているチップを交換する」 「ふうん。腕は確かなんだろうね」  ヴィオラの言葉に、男は気分を害したようすだった。 「別に嫌なら無理しなくてもいいんだぞ。俺は頼まれてしているだけだ」  ヴィオラは肩を竦めると、その目がまっすぐに掃除ロボットを見た。 「いいんだよな?」  念を押すように問いかけられて、掃除ロボットは戸惑った。  いいって、何が?  部屋の中の空気がぴんと張りつめた気がした。掃除ロボットはおろおろとあたりを見回した。自分の答え如何では、決定的な何かが変わってしまう気がした。  中身を交換する? 自分みたいな旧式と、最新型のアンドロイドが? 本当に?  気がつけば、はいと答えていた。内心の迷いを見透かすように、ヴィオラの強い視線を感じて、掃除ロボットは落ち着かない気持ちになる。  彼のほうは本当にそれでいいのだろうか。  掃除ロボットには、セクサロイドの少年が何を考えているのかわからなかった。ヴィオラは金色の睫毛を伏せると、ふいと視線をそらした。掃除ロボットの足元で丸くなっていた猫を掴み上げると、男の前に突き出した。 「こいつの代わりにこれを使ってよ」 「は!? 使うって猫をか?」  逃げようと暴れる猫を押しつけられて、男は逃げ腰になる。 「この先ずっと誰かに使われるのはごめんだ」  男は頭を掻くと、まあ、俺には関係ないか、と猫を受け取った。 「シャツを脱いで、そのソファに横になれ」  ヴィオラは染みがついたソファを見て眉を顰めると、着ていたシャツを脱ぎ、ソファに横たわった。薄汚れたソファに横臥したヴィオラの肢体は美しい彫像のようだった。雪花石膏の肌は内側から淡く発光するように輝き、薔薇色の頬や唇、ぷくりと膨らんだ乳首は生命力に満ちあふれていて、彼が人工的に作られたものであることを忘れてしまいそうになる。男がごくりと唾を飲むと、閉じていた瞼が開き、宝石のような瞳がのぞいた。 「おかしなことを考えていないだろうな」 「おかしなことって何だよ。考えてねえよ」 「ふん。どうだか」  ヴィオラは冷たく鼻で笑った。 「う、うるさい。ごちゃごちゃ言うなら止めてもいいんだぞ」

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