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第4話 告白

 「瑞樹、久しぶり。体調はもういいの?」  奏多は俺が左手に掴んだままのビールに視線を移すと、笑いながら言った。  「早退したって聞いたから。お見舞いに来たんだけれど」  「あ……え、なんで?」  驚いて声が掠れる。  「今日、社食で俺のこと見て逃げるんだもん」  食堂で奏太を見かけて逃げるように立ち去った時に、奏太は俺に気がついていたんだと知った。大野が大きな声で俺を呼び止めたからなのか。逃げたつもりはない…いや、確かにあの時は逃げたのかもしれない。  「入社から、偶然の再会ってドラマチックなこと期待してたけど、なかなか会えなくてさ。さすがに部署も知らなかったしね。調べるより、偶然出会えるの待っていたんだ」  「偶然って、お前。あそこで何人働いていると思ってるんだ」  「知ってるよ。でも俺と瑞樹は運命でしょう、実際会えたでしょう。まあ、やっと会えたと思ったら、瑞樹が逃げ出しちゃったけれどね」  「……」  奏太が何を言っているのか理解できない、再会を期待していたのか?それは何を意味するのだろう。  「えっと、上がらせてはくれないのかな。それとも俺がここに来るとまずい?だったら帰るけど。今、他に誰かいるとか……」  「いや、誰もいない。上がって」  前のアパートを引き払って会社に近いところに引っ越した。だからここの住所は奏太は知らないはず。どうやってここへ来たんだ。  「誰に俺の住所を聞いて……」  「あ、瑞樹と同じ部署の大野さん。高校の時の同級生ですと言ったら、だからか!って納得されたけど、どうしてかな?あ、お邪魔します」  「いや」  そういえば、大野はここに二度ほど泊まりに来たことがある。飲み会の後、家に帰るのが面倒だと半分強引にここへ来たのだ。そうか、大野なら知っていると納得した。  部屋に入ってきた奏太を改めてみて、驚いた。まるで別人だ。この前別れた時は、線が細くて、今にも倒れてしまいそうだったのに。  今目の前にいるのは、自信に満ちた顔をした青年。あの時の不安気な空気は消え、強い目で俺を真っ直ぐに見ている。  濃いグレーのスーツに身を包んだ奏太は匂いたつように色っぽい。これなら秘書課の女性が騒ぐのも分かる。自信をつけた奏太は本当にきれいだった。  「ってか、なんで今まで…その……」  俺はその姿に気おされたのか、しどろもどろになってしまった。  「この四年間、瑞樹に追いつこうと必死に頑張ってきた。堂々と瑞樹の横に並んで立てるように」  そう言った後、奏太はくすっと笑って続けた。  「就職活動の時に偶然、あの会社で瑞樹を見かけて就職を決めた。運命だと思ったよ。どうしても入社したかったから、少しだけ力のある人の推薦状をもらって人事に話をつけてもらったけれど。後は実力だと信じている」  そうか、だからお偉いさんの親戚などと言う噂が流れていたんだと納得した。  「海外生活が長いって、聞いたけど」  「ああ、アメリカの大学で単位を取ったから一年留学はしていたけれど、それだけだよ」  「ようやく同じ会社だとわくわくしていたのに、瑞樹は俺のこと見て逃げるんだもん」  「奏太、お前…、と言うか俺……」  「ん?」  「ごめん。今混乱してて、俺自身、何が言いたいのかも解らない」  「再スタートしたくて頑張ったんだ。そして、ようやくその資格を手に入れた」  「再スタートって、一体何を……」  「俺と瑞樹の関係。で、告白をしに来ました。改めて、瑞樹、俺は瑞樹のことが好きです。付き合ってください」  朝から今日はろくでもない日だと思った。だが、その一日の最後は台風だったようだ。

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