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第6話 幻と現実

 静かに閉まったドアを見つめて、ぼんやりと考える。今、何が起こったのかよく理解できていない。というより今俺の目の前にいたのは本当に奏太だったのだろうか。  俺に追いつこうと努力していたと言っていた。四年間何の連絡も寄越さずに、自分で納得するように走ったのか。  あの時、後四年待ってくれと、そう言ってくれさえすれば。四年だって待てる自信があった。こんなのは一方的な気持ちの押し付けだ。  生温くなったビールを一気に流し込む。その缶をぐしゃっと握り潰し、シンクへ投げつけた。ステンレスのシンクにアルミ缶が当たり大きな音を立てた。  叫びだしたいような衝動にかられ、上着を掴むとそのまま夜の街に出た。  気がついた時は、したたか酔ったのか店の外に追い出されていた。こんなひどい飲み方をしたのは大学生の時でさえなかった。俺は酔っ払って道路に座り込んでしまっていた。  誰かが声をかけてくれたような気がした。そして次に目が覚めた時はなぜか警察署のソファに寄りかかるようにして座っていた。  気持ちが悪くて吐きそうになり、そのままトイレに連れて行かれまた記憶が切れた。  翌日、硬いベッドで身体を起こすと、なぜか母親が迎えに来ていた。  警察から呼び出されるなんてと、泣きながら怒る母親に怒鳴られた。そして、一体何があったのかと詰め寄られた。  疲れがたまっていたところに深酒しただけだと、言い訳しても納得はしてもらえるはずもなく。二日酔いでガンガンする頭はまともな言い訳をはじき出してくれるはずもなかった。結局、黙って母親の話に頷くことしかできなかった。  そして、その日はアパートまでついて来た母親に一日中小言を言われる羽目になった。  冷蔵庫を開けて、呆れた声を出された。部屋を見渡して、あまりにも殺風景だと。恋人もいないのか、と長い説教とも愚痴ともとれる話が続く。  「今度の日曜日、必ず帰ってきなさい」  それだけ言い残すと、ようやく母親は俺を開放してくれたようだ。ただ、空っぽの胃袋に作ってもらったお粥が優しかった。日曜日には帰るかと、スケジュールを確認してなんとかなりそうだと考えた。  土曜日を半分ベッドで過ごして、体は立ち直ったが心は立ち直るまでにはまだ時間がかかりそうだ。自分で、断っておきながらなぜか気分が萎えてしまっている。  四年をかけて俺に追いついたと告白した割に、なんであんなにあっさりと帰ったのかと。考えれば考えるほど腹がたってきた。  断ったのは俺。   ……今回断ち切ったのは俺のはずなのに。

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