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第7話 勘違い

 翌日の日曜日はアパートの掃除をして時間を過ごした。ほとんど使ったことのないキッチンを磨き上げた。綺麗になるにつれて、少しずつ前向きに考えられる気がしてきた。  なんだか少しだけ楽しい気分になって、日曜日の夜は自分で簡単な食事の支度までした。俺だってやればできると思った。  その日の夜は気分良くベッドに入り、来週から頑張れると思いながら眠りに就いた。  それなのに月曜日の朝は……最悪の気分だった。自分でも理解できない程落ち込んでいる。  いつもなら五分とかからない身支度が十分かかっても終わらない。冷たい水で顔を洗って、「よし」と、声を出してからアパートを後にした。  「おはよう、木村。体調はもういいのか?」  大野に声をかけられて一瞬ドキッとする。  「な、何の話?」  「え?お前、金曜日に具合悪くて早退したろ」  ああ、そのことかと納得する。大野が俺と奏太のことを知っているはずがないのに俺は何を驚いたのか。  「もう大丈夫。悪かったな、迷惑かけて」  「別に大したことじゃないよ、普段のお前の仕事量の多さを改めて知ったよ。少しは俺たちにも仕事回してくれよ」  「いや、本当に悪かった。助かったよ」  「そういや、お前あの尾上の友達なんだって。」  奏太の名前を出されて、胃がギュッと誰かに掴まれたような気がした。吐き気が上がってくる。  「いや。知り合いって言っても、高校の時に同じクラスにいたってだけだし……」  そう言いながら、確かに高校の二年半を一緒に過ごしただけ。恋人だった期間はそのうちの1年と少しだけだった。そして、その当時の関係に未だに振り回されている自分自身が嫌になった。  前に一歩も進めていないのか、俺。  このままじゃ、だめだ。奏太に会社で偶然会うことはほとんどない。高層階にも社食にも行かない。  帰宅時間も営業と管理部門では全く違う。会うはずはない、そう……朝の通勤時間を除いては。  「おはよう、瑞樹」  会社の入口で、後ろからいきなり声をかけられた。  「え、そう……尾上、おはよう」  「ああ、噂をすれば影が差すってか。おはよう尾上君」  「あ、この前はありがとうございました。大野さんでしたよね。瑞樹、いえ、木村さんと仲がいいんですね」  「そりゃ、俺たち同期で親友だよな」  そうだった、大野はもともと距離感の近いやつだった。いきなり俺の肩に手を回し、顔を寄せてきた。止せと思ったが、同時に動くのも面倒だと思ってしまった。  「へえ、そんなに仲がいいのですね。木村さん、良かったですね。じゃあ、失礼します」  そう言うと、奏太は高層階行きのエレベーターホールへと進んでいった。勘違いしたかもしれない。それでも、いい。

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