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第8話 憂鬱な月曜日

 仕事が始まってしまえば、仕事に追われて一日が終わる。  忙しいということは、何も考えなくて済むということだ。忙しくしていればいい、憂鬱な今日をお終わらせるために。  次回の船積み予定の貨物の書類を確認する。本来なら先週の金曜日に自分がチェックしたはずだが、今回は大野に任せていたので何も確認できていない。  大野を信頼していないわけではない、問題ないことを確認するのも仕事のひとつだ。本音を言えば、今は何でもいいから仕事をしていたい。  書類に目を通していると、梱包会社宛に出した指示書が、船会社に出した送り状と相違していることに気が付いた。  金曜日の俺の仕事だった分だ、そう思うと気が重くなる。  「課長、梱包指示書ですがインボイスとディスクレ起こしています」  「どこが違っている?」  「シッピングマークが違います。ここ、違っています」  「全くこんな初歩的なミス。誰だ、指示書を作成したのは」  俺の仕事を引き継いだのは、大野ということは、アシスタントの佐久間さんだ。大野はチェックが甘い。そういえば、自分の取引先の書類もよく銀行に書類の修正を入れていた。終わりよければ全てよしというタイプだ。  「いえ、私の仕事でしたので私の責任です。すぐにアメンド入れます」  会社だときちんと自分の役割がある。役割があるということは、自分の居場所があるということだ。ここに居てもいいと言われているような気がしてほっとした。  「木村、週末にいいことあったのか?何だか今日は張り切って仕事しているな」  課長に言われて苦笑いする。別に張り切っているわけじゃない。何も考えたくないから無心で仕事をしているだけだ。それが一生懸命に見えたているのならば、それはそれでいい。  「金曜日に自分が放り出した仕事の後始末ですから、張り切るのとは少し違いますけれど」  そう答えると「そうか」と、課長が笑った。俺はただ黙々と仕事をする。  仕事をしていたら昼休みに、恐る恐る大野が近づいてきた。  「わりぃ。俺何かやらかした?課長に絞られちゃったよ……ってかあの人自分も判押してるからな、まったく人のことばっか。お詫びに昼飯おごらせてくれよ、な?」  大野が珍しく下手にでてきた。  「何、らしくないんだけど?」  「いやいや、お詫びってことで」  背中を押されてエレベーターホールへと向かった。いつもの食堂街の入口で大野は、「あ、いたいた」と、声を上げた。  手をあげた大野の視線の先には秘書課の女性が三人立っていた。  「はい、こいつが尾上の高校の時のお友達の木村。で、こっちが古谷さん、諸井さん、石山さんね」  「大野、これどういうことだ」  小声で確認すると、ぐいっと柱の影に引っ張られた。  「尾上を紹介して欲しいって古谷さんが言うからさ。代わりに俺たちにも誰か紹介してって頼んだんだよ、感謝しろよ。だから、お前は古谷さんを尾上に紹介してくれればいいんだよ」  俺が奏太に女性を紹介する?そんな日が来るとは夢にも思わなかった。  「無理だよ。そう…、尾上の都合も聞いてないし」  「とりあえず紹介したら、あとはダメでも問題なくね?」  また、結果よけれのパターンだ、最悪だ。こいつに借りを作るのだけは止そうと改めて思った。  そして昼食の帰りに、古谷さんから連絡先を受け取った。これを俺が、奏太に……。どうやって渡せというのだろう。

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