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第11話 記憶にない夜

 「え……うそ……」  どうしてこうなったのか分からない、気がついたらベッドの中だった。  酒の勢いなのか、記憶が全くない。もぞもぞと人が動く気配に目が覚めると、ベッドから奏太が起き上がって出ていくところだった。  「あ、起こした?ごめん、瑞樹。起こさないように気をつけていたのに。明日は会社だから帰る。お邪魔しました」  奏太はそれだけ言うと、するりとベッドから抜け出した……一糸まとわぬ姿で。  「嘘だろ……」  頭を抱え込んでしまう。一体何があったのか。いや、何がじゃない。なぜこうなったのか。  アルコールに負けていたはずの体と頭が、一気に正常モードにもどる。  たったあれだけのお酒に飲まれるはずはないのに、どういう事なんだろう。接待で気を遣いながらワインを飲み、帰ってきてから奏太と飲み始めたんだったと思い出す。  奏太が玄関先に立っていて、部屋に上げて……。  何で部屋に上げた?何の話をしていた?変な緊張のせいかいつもよりピッチが速かったのは認める。だが、記憶がなくなるほど飲んだのだろうか。  悶々と考えていると、自分の下着や服を手際よく拾い集めた奏太が振り返った。  「今度の金曜の夜は何か約束ある?」  「いや、金曜日はないけど……」  「じゃ金曜日ね。大丈夫、金曜日の夜のうちに帰るからさ。さっき、週末は用事があるって言ってたよね」  「ああ」と答えたものの、それが週末に用事があるという事に対してなのか、金曜に会うという事に対しての返事なのか分からないまま会話はおわった。  奏太は俺の返事ににっこりと笑った。そして、足元にまとめられていた自分の衣類を拾い上げ身につけた。  まるで、何事もなかったかのように軽く手を上げて、ひらひらと手を振ると俺の部屋から出ていった。  床の上に残されたのは脱ぎ捨てられた自分の服だけになった。  「俺、何したんだ」  身に覚えはない、いや単に覚えていないのだけなのか。頭から血の気が引く。何かあって覚えていないなんてこと、あるはずがない。  それでもここのとろこの禁欲生活を考えれば、何かあったかもしれない。ベッドの周りを見渡すが、それらしい形跡は何も残っていない。  だが、何もなかったと言い切れる自信が欠片もなかった。  「嘘だろ……」  何度も同じセリフが、こぼれて落ちる。  ベッドの上で、たった今ここから当たり前のように出ていった奏太を思い起こす。  金曜日の夜って……俺は奏太に何を言って、何を約束してしまったのだろう。  まるで、頭の中で半鐘がなっているようだ、痛い。一度覚醒してしまった頭はもう一度落ち着きを取り戻すまでしばらく時間がかかる。  今日はもう眠れないだろう。

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