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第13話 後での約束

 それからの1週間は、奏太から何の連絡もなく、ただ時間だけが過ぎていった。  「後で」……っていつだよ。  変な苛立ちだけが残る。  あっという間に1週間は終りを告げた。週の終わりの金曜日、妙に浮き足立った社内の空気にため息をつく。  どうぜ今日も残業だ、机の上に煩雑に積まれた書類は今日までと期限が切られたものではない。だが、これを残せば来週の仕事に影響が出る。  休日に出社して書類整理は避けたい。それに日曜日には意地と勢いで受けてしまったお見合いがある。  書類の山と向き合うべく、椅子に姿勢を正して座り直した時に内線電話がなった。  「木村さん、内線1番に外為の尾上さんです」  「おっ、飲み会の相談か?」  大野は仕事では気が回らないのに、聞かなくてもいい会話は逃さず捕まえる。  変に人の話に聞き耳を立てるところがある。あいつを垣根で囲えば、きっとキリンのように首が伸びるだろうと思ったことがあった。  大野への返事を保留にしたまま、電話を取る。  「先週の約束、今日だよね。お夕飯に何食べたい?今からロビーまで来て。鍵預かっていくから」  一方的な会話に少し驚く、四年前の奏太はこうだったろうか。  一度決めたら絶対に引かないところは確かにあった。だけど、ここまで積極的に俺に関わろうとしてくれたことは無かったはずだ。  「……瑞樹?聴いてる?俺がデスクまで取りに行ったほうがいい?」  「いや、すぐに行く」  そう言って受話器を戻す。大野が目を輝かせて、こちらを見ている。  「飲みには行かないから、俺はいつもの通り残業」  そう返事をすると大野は残念そうな顔をして、自分のデスクに戻っていった。その後ろ姿を見送った後、ロッカーのカバンから鍵を取り出して、エレベーターへと向かった。  「なんで当たり前のように鍵渡そうとしてるんだ?」頭の中で、もう一人の俺が聞いてきた。それに答えることなく、エレベーターの人の波に押し出されてロビーへと向かった。  それでもデスクに戻り仕事を始めると余計な考えは頭から押し出されていく、層がが家にいるという事実を思い出したのは、帰りの電車に乗る時だった。  奏太が家にいると思うと正体の分からない感情がわいてきた、何か重たいものが胃の辺りにおりてくるのがわかった。  自分のアパートについて、窓の灯りを認める。帰るのは自分の家のはずなのに何故か緊張する。それでも足は一歩ずつ近づいていく、そしていつも通りドアに自分の手がかかる。  「おかえり、瑞樹」  ドアの向こうには、笑顔の奏太が待っていた。

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