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第14話 あの夜の事

   「金曜日の夜、何があった?」そう聞いてきた瑞樹の表情を見て思った。  瑞樹の知りたい答えは、何もなかったと認めてもらいたい。そう言うところだろう。  あの夜半分やけくそで「一緒に飲もう」と誘った。どうして、自分が瑞樹に女性を紹介されなきゃいけないのかと腹が立っていた。    好きな人がいると言った瑞樹の部屋は、だれかの影を探すにはあまりにも殺風景で。かと言ってどこかにいつも出かけている風でもなかった。  日曜日に出かけた時に、瑞樹のことをよく知っている大野と言う同僚に確認をしたが、女性の影も見えない。仕事と会社の往復だという。  「あいつ仕事と結婚すんじゃないの」と、笑っていた。  そう、瑞樹の周りに女性はいない。他に距離の近いのはこの人だけ。でも大野さんの恋愛のベクトルは明らかに女性に向かっている。  俺の恋愛のスタートは瑞樹だった。それまで人と係わることは恐怖でしかなかった、恋愛なんて一生しないだろうと思っていた。  男が好きだとか女が好きだとかいう以前に、瑞樹しかいなかったのだ。  けれど瑞樹は違う。高校に入学した頃に中学の時から付き合っている彼女と別れたと聞いた。そのあとクラスの女子と少しの間一緒に居るのを見かけたことがある。  俺と離れて、それで瑞樹が幸せになるのならと思っていたのに瑞樹は今でも一人だと知った。だから、まだ可能性はあるのかもしれないと狡い考えで瑞樹のアパートへと向かった。  部屋の電気は消えていて、誰もいなかった。確か今日はクライアントのピックアップに成田に向かったはず。泊まることはないだろう。そう思ってドアに寄りかかって待っていた。  少し疲れと思い始めた時に瑞樹が階段をあがってくるのがわかった。高校の時から変わらない。右足が少し重い音がする。歩くときのくせなのか、トンッ、トン、とリズムがある。  久々に飲むというのに話す話題もなく、瑞樹はただアルコールを流し込むよう飲んでいた。随分と飲むなとおもっていたら、ぴたりと手が止まった。  「あのさ、俺ね……」  そこで、テーブルに瑞樹は突っ伏してしまった。そのまま寝かせるわけにはいかない。そう思って。瑞樹の顔を覗き込む、そこにあったのは本当に高校生の時と変わらない寝顔だった。そっと耳元に唇をよせると、くすぐったそうに首をすくめた。  「瑞樹、ここで寝ちゃ駄目だ」  抱き起こすように身体を支えながら瑞樹をベッドへと連れて行く。  「ん?……あれ?そーた、だ」  笑っているが、焦点が合ってない。  「瑞樹、重い。きちんと歩いて」  「はあ?なんで、お前ここにいんの?」  完全に酔っている。  「暑っつい。服、これ邪魔」  確かに会社帰りのままだ、瑞樹もこれじゃあ眠れないだろうと思った。  「瑞樹、今脱がしてやるから。そこ座って」  ベッドに腰掛けさせるとシャツのボタンを外してやる。されるがままの瑞樹が可愛い。バックルに手をかける、ゆっくりとベルトを引き抜くと瑞樹がふうっと息を吐いた。  「楽になった、ありがとう……」  瑞樹はなぜかくくっと笑うと転がるようにベッドに倒れた。あの日の瑞樹と俺との距離は……。

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