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第15話 そしてあの話

 あの夜、瑞樹との距離は近かった。  ここまでならという俺たちを分かつ線が、消えてなくなっていた。国境線の消えた瑞樹に近づく。 「瑞樹、もう寝てる?瑞樹?」  そっと頬をなでると表情が緩んで、幼い顔になる。  「ん……気持ち…い……」  そのままゆっくりと瑞樹の着ていたシャツに手をかける。手をすべらせるようにシャツを捲り上げると、張りのある肌が露になる。  大人しくされるがままの瑞樹を見て、心音が速くなる。そっとその肌に口づけを落とすと、瑞樹はくすぐったそうに身を捩った。時折、柔く口づけながら、身につけていたものを少しずつ脱がせていった。  窓から少しだけ漏れてくる街の明かりが瑞樹の白い肌に濃淡をつける。俺より背は高いはずが、いつの間にか同じになっていた、いつの間にか瑞樹の肩幅より俺肩の方が少し広くなった。そして、いつの間にか俺たちの間にあったものは形を変えてしまった。  自分の着ていた服を脱ぎ捨てると、瑞樹の肌とぴったりと重ねた。触れ合ったその皮膚から、感情が伝わって心臓に達するように。このまま溶けてつながってしまうようにと。  「瑞樹、好き……どうしようもないくらい……」  眠る瑞樹のその唇に自分の唇を重ねようとしたその時に、瑞樹が小声で言った一言が俺の心臓を凍らせた。  「だいじょうぶ、ちゃんとね……結婚…する……るから。だいじょう……」  体が硬直した、そして次に全ての力が抜けた。  ……結婚する、瑞樹が……結婚するのか…いつ?誰と?  「瑞樹、……結婚するの……」  「……ん」  来週末はその女性に会いにいくのだろうか。日曜日には用事があると言っていたのはこのことか。  「そうか、結婚するのか……」  普通に結婚して家庭を持つ、瑞樹ならきっといい父親になる。だったら、ここに俺の存在はあってはいけないのだ。  好きな人がいると言っていたのは本当なのだろう、会社の人じゃないから誰も知らなかっただけか。  酔ってすっかり眠ってしまった瑞樹の身体にそっと触れる。ああ、瑞樹の匂いがする。このまま眠ってしまいたい。  けれど明日の朝、冷静な瑞樹に結婚すると告げられても、それを黙って受け入れる心の準備はまだできていない。そして、この状況だって説明できない。  今のうちに帰るべきだ。  ……瑞樹を起こさないようにと、そっとベッドから抜け出す。ギシと、小さな音をベッドが立てた。その時、瑞樹がごそっと身体を起こす気配が後ろでした。  「あ、起こした?悪い。明日は会社だから帰る、お邪魔しました」  慌ててベッドから抜け出す。  「嘘だろ……」  瑞樹の声を聞こえないふりでやり過ごす。別に何かあったわけじゃないけれど。それを弁明するのも嫌だ。友達と裸でベッドの中、それを説明しなくちゃいけない。  「ん?何?また来るわ、今度の金曜の夜何か約束ある?」  「いや、金曜日はないけれど……」  「じゃ金曜日ね。大丈夫、金曜日の夜のうちに帰るから。さっき、週末は用事があるって言ってたから」  そう言うと、「ああ」と瑞樹が返事をした。

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