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第16話 月曜日のこと

 瑞樹を残して、自宅へ帰った翌朝、いつもの通りに出社したものの気がかりで仕方なかった。営業部のフロアをうろつくのは不自然だと分かっていたが、瑞樹の様子が気になってしかたなかった。大野さんに日曜日の非礼を詫びるだけ。  ……それだけだ。他意はない。誰にともなくそう言い訳しながら五階の瑞樹のいるフロアに向かった。  顔を見た瞬間にいきなりと背中側から胃を掴まれ、引きずり出されるかのような痛みが走った。それでも瑞樹が普通に出社しているのを見て安心すした。  なぜ四年間も連絡をくれなかったのか、瑞樹にそう言われた。  この四年間は自己精算と自己研鑽の時間だった。もう自己卑下したくない、瑞樹の前で堂々としていられる自分になりたいと、願っていた。だから途中で、なし崩しになるのだけは避けたかった。  同じ場所に立てるという自信ができたら、そしてその時に同じ気持ちで逢えたら。  そう、俺にとっては大きな賭けだった。  離れている間に瑞樹に他に好きな人ができたら、本当はその方が良いと言い訳していた。そんなことは微塵も思ったことがないのに。どこかに瑞樹と自分は何があっても出会えるという変な確信があったのだ、根拠もないのに。    馬鹿だ、心が凍る。俺は賭けに負けただけ、それだけのことなのに。  俺との生産性のない関係より、家庭を持てる相手が見つかったのならばそのほうがいい。頭ではわかっている。飲み込んだ思いが逆流して苦さだけが、残る。  あの時、単なる同級生と紹介されて、喉の奥がチリリとした。  「単なる同級生ね、結構仲が良かったと思っていたのは俺だけだったみたいですね」  瑞樹が困った顔をするのを見て、少しだけ意地悪な自分がそこにいることに驚いた。俺はこんなやつだったのかと自分でも驚いた。  瑞樹の顔を見て、もう終わりにしなくてはと思っていたら、瑞樹が追ってきた。瑞樹の心配はひとつだけ、昨日の夜の事だろう。何かあったのか、なかったのか、それが知りたいのだろう。  何もなかったよと言えば済むこと、それなのになぜか苛立ちが募って意地の悪い回答をはじき出す。 「後で」と逃げた、それが何も解決しないことは自分が一番わかっているはずなのに。

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