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第17話 約束の金曜日

   それからの一週間、金曜日の夜までなるべく瑞樹に会わないように避けて歩いた。一日でも先送りしようとしているのはなぜなのだろうか。仕事という逃げ場所があるから、昼間は平静を保っていられる。  問題は夜一人になったときだけだった。くだらない考えに翻弄されて、くだらない夢をみる。  一週間逃げたが、約束の金曜日はすぐにやってきた。きちんと最後は別れる。始まっていない関係を終わらせるって、どういうことだと思うが。それでも自分の為に線引きが必要。  瑞樹から半分無理やり受け取った鍵でアパートのドアを開ける。これが恋人を待つ部屋だったら同じ空間がどれだけ違って見えるのだろう。そう思いながらため息をひとつ付いた。  ぐるりと部屋を見渡す。結婚すると言っていたのに、瑞樹の部屋にはやはり女性の影もなかった。鍵も素直に渡してくれたということは、ここには来ないのだろう。  どうやって知り合って、どうやって結婚までこぎつけたのか。あの仕事のやり方でよくと思う。誰もいない部屋でそっと瑞樹のベッドに頭を乗せる。ああ、落ち着く。瑞樹の生きている空間だ、俺がいるべき場所ではない。その事実が胸に刺さる。  結婚したらこの小さなアパートは出て行くのだろう。  ……結婚式には俺も出るのか。……地獄だな、それ。  思考の波に飲まれていたらいつの間にか時間が過ぎていた、瑞樹が帰ってくる前に食事の支度くらいしておこうと思ったのにと慌てる。  何か簡単に作れるものはないかと、ほとんど空っぽの冷蔵庫を見つめていたらがちゃりとと、ドアが開いた。  「おかえり」  瑞樹の帰りを迎えたことに、一瞬心が躍った。  「遅くなって悪い、これでも急いだんだけれどな」  急いだと言われ、一瞬に泣きそうになる。あまり優しくしないで欲しい、瑞樹が嫌なやつなら良かったのに。  「……飯、まだだよな。すぐに作るよ」  「ん、外に出ないか?近くに旨い居酒屋があるんだ」  瑞樹は当たり前のように玄関先で俺に手を差し出した。その手がまるで見えなかったように、冷蔵庫に向き直った。手を取るわけにはいかない。ドアを閉めて、財布と携帯を手にとり靴を履いた。  瑞樹はまだ、あの夜のことは聞いてこない。知っているのか、本当は何もなかったのに俺が今日の約束を無理やり取り付けたと言うことを。  黙って二人並んで歩く。瑞樹の歩くリズムを頭の中で刻みながら歩くのは、高校の時からの俺の癖。こうるすとほとんど同じ速度で同じ距離を保って歩くことができるから。  「結婚するんだっけ、式はいつ?」  さり気なく聞けた、まるで普通の友達のように。  「……」  「俺も招待してくれる?ああ、単なる同級生だったな」  瑞樹は何も答えてはくれない。  「冗談だよ。おめでとう。良かったな、あー腹減った。さて、飯、飯」  瑞樹の答えは何もなく、二人で居酒屋の暖簾をくぐった。

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