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第22話 驚きと涙

   突然切れた電話を見つめる。  ……画面がすっと暗くなった。  お前は何をしているのだ、終わったものを手繰り寄せようとしているのかと、問われている気がした。  それなのにもう一度同じ番号を呼び出した、その電話に応じる人はいなかった。  携帯をポケットに滑り落とす。ポケットの中にすとんと落ちる重さがあって、これは現実だと告げていた。  部屋に戻ると、決まり事をこなすように軽くシャワーを浴び、その日の埃を洗い流す。 、空っぽの胃袋がキリキリと痛んだ。食欲はなくても何か食べないと生きていけないんだと自覚する。  冷蔵庫を開ける。その白い扉の向こう側に入っていたのは、ペットボトルに入った水だけだった。取り敢えず水を空っぽの胃袋に流し込む。そして音を立てて冷蔵庫の扉を閉める。  ベッドに身体を投げ出すようにして、これからのことを考えた。  今週末、もう一度実家に帰ろう、もう奏太とは切れたんだとさっきの電話で知った。あとは踏み出すのみ。  「奏太……」  どこで選択を間違えたのだろう。俺はどこかで曲がり角を間違えた。ただ、ひたすらそんな気がする。  目を閉じるとゆっくりと睡魔が近寄って来るのを待った。  明日も仕事だ、いつまでもこんな気持ちを引きずっているわけにはいかない。  眠ろうと意識すればするほど眠れない。余計な考え事がぐるぐると思考の中で渦を作る。このままじゃ朝まで眠れないかもしれない。  ベッドから跳ね起きると、上着を羽織って玄関へと向かう。アルコールでも買ってきて流し込めばなんとか眠れるはず。  アパートのドアを開けて心臓が止まりそうになった。黒い塊が、ごそっと動いたのだ。驚いて後ずさりする。  「そうた、お前何してるの?」  「ん?ああ、瑞樹か……電話の様子がおかしかったから……。でも、来たら電気消えてるしいないのかなと思って」  「え?だってさっき……」  「それで、帰ろうと思ったらこれしかないし」  奏太はひらひらと、電車のICカードを振ってみせた。  「大して入金してないからタクシーじゃ帰れないし、電車終わってるし。ここで眠ってたら帰って来るかもと思って……」  「お前、バカじゃないのか。なんでインターフォン鳴らさないんだ。ってか携帯は?電話かけて来いよ」  「ん?携帯ね、飛び出してきたから忘れてきたみたいでさ」  「飛び出しってって……どうして……」  「瑞樹、泣いてたでしょう。死んじゃうんじゃないかって、びっくりした」  目をこすりながら伸びをするその姿を見ていたら、自然と涙がこぼれた。  「奏太……お前、本当に何やってんだよ……」  「え?それ、俺のセリフだからね」  奏太は、笑いながら答えてくれる。その笑顔に胸が締め付けられる。立ち上がらせようと伸ばした手を奏太がとった。  「手、冷えてる」  「ん、少し寒いかな」  奏太の手をとって立ち上がらせると、ドアノブに手をかける。奏太は手を引かれて、軽く俺に向かって微笑んだ、その顔が愛しくて、悲しくて、そして嬉しくて。  「瑞樹?やっぱり泣いてる」  くすっと奏太が笑った。

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