3 / 58
第3話
部活が終わると、三石はさっさと帰って行った。中川は、そんな奴の後ろ姿を見ながら、ぶつぶつ言った。
「三石って、マジで生意気だよなあ。三年の部長にあんな態度取るか? 優秀だからって、調子に乗ってんじゃねえ?」
橋本は、ちょっと三石を庇う素振りを見せた。
「でもあいつ、真面目は真面目だぜ。うちの部が過去に発行した新聞、めちゃくちゃ研究してるらしい。白柳、お前が書いた記事もな」
「……そうなんだ」
それは初耳だった。俺は少し驚いた。
「案外、白柳に憧れてるのかもよ。それを素直に表現できないだけでさ」
橋本は、にやっと笑った。
しかしそうは言われても、三石に言われたことはしつこく引っかかっていた。母親が俺に大きく影響を及ぼしているのは、確かだからだ。今日言ったことだって、母さんの言葉が頭にあったからだった。俺が海兄さんの出生を疑った際、母さんはこう言ったのだ。
『記者は確かに、真実を突き止め世間に公表する仕事だ。でも、全てをさらしていいわけではない。誰にだって、触れられたくないことはあるだろう。それは、そっとしておいてあげないといけないんだ……』
俺は、思い直した。
――受け売りばっかりもよくないよな。よし、もう少し自立しよう……。
以来俺は、母さんから距離を置き始めた。記者の仕事に関する質問は、稲本さんにするようになった。傷つけているかも、という自覚はあったが、妙な意地を張っていたのだと思う。
そんなある晩、父さんと母さんの寝室の前を通った俺は、二人の会話を聞いてしまった。
「俺って、母親としてダメなのかなあ」
母さんは、珍しく落ち込んだ声を出していた。何やら父さんが慰める気配がする。それでも母さんは、なかなか元気が出ない様子だった。
「明希の時はまだ、女の子だからさ。母親っていっても男の俺じゃわかんないこともあるかなって、そう考えてた。だけど、望大にまでああいう態度を取られるとなあ……」
決まり悪くなり、俺はその場を離れた。父さんから呼び出されたのは、その翌日のことだった。
ともだちにシェアしよう!