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第3話

 部活が終わると、三石はさっさと帰って行った。中川は、そんな奴の後ろ姿を見ながら、ぶつぶつ言った。 「三石って、マジで生意気だよなあ。三年の部長にあんな態度取るか? 優秀だからって、調子に乗ってんじゃねえ?」  橋本は、ちょっと三石を庇う素振りを見せた。 「でもあいつ、真面目は真面目だぜ。うちの部が過去に発行した新聞、めちゃくちゃ研究してるらしい。白柳、お前が書いた記事もな」 「……そうなんだ」  それは初耳だった。俺は少し驚いた。 「案外、白柳に憧れてるのかもよ。それを素直に表現できないだけでさ」  橋本は、にやっと笑った。  しかしそうは言われても、三石に言われたことはしつこく引っかかっていた。母親が俺に大きく影響を及ぼしているのは、確かだからだ。今日言ったことだって、母さんの言葉が頭にあったからだった。俺が海兄さんの出生を疑った際、母さんはこう言ったのだ。 『記者は確かに、真実を突き止め世間に公表する仕事だ。でも、全てをさらしていいわけではない。誰にだって、触れられたくないことはあるだろう。それは、そっとしておいてあげないといけないんだ……』  俺は、思い直した。  ――受け売りばっかりもよくないよな。よし、もう少し自立しよう……。  以来俺は、母さんから距離を置き始めた。記者の仕事に関する質問は、稲本さんにするようになった。傷つけているかも、という自覚はあったが、妙な意地を張っていたのだと思う。  そんなある晩、父さんと母さんの寝室の前を通った俺は、二人の会話を聞いてしまった。 「俺って、母親としてダメなのかなあ」  母さんは、珍しく落ち込んだ声を出していた。何やら父さんが慰める気配がする。それでも母さんは、なかなか元気が出ない様子だった。 「明希の時はまだ、女の子だからさ。母親っていっても男の俺じゃわかんないこともあるかなって、そう考えてた。だけど、望大にまでああいう態度を取られるとなあ……」  決まり悪くなり、俺はその場を離れた。父さんから呼び出されたのは、その翌日のことだった。

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