6 / 58

第6話

「白柳先輩!? これは、違うんです。その……」  一年のアルファたちは、俺の顔を見ておびえ始めた。 「何が違うんだ? 発情期のオメガを多数で襲うなんて、アルファの風上にも置けないな」  俺は、奴らを思いきりにらみつけた。 「一からバースの勉強をやり直してこい。今回は見逃すが、次同じことをやったら、この学校にはいられないと思えよ。お前らの名前とクラスは、全部把握してるからな!」  把握なんてしてないけど。でも俺のハッタリを信じ込んだ奴らは、次々に頭を下げると、逃げ出していった。 「大丈夫か……? 抑制剤は?」  奴らがいなくなると、俺は三石に話しかけた。 「持ってない……。時期じゃなかったから」  確かに、抑制剤があればさっきの連中に襲われることもなかっただろう。部活中に様子がおかしかったのも、ヒートの予兆か。そこで俺は、父さんに言われたことを思い出した。 『発情したオメガと遭遇したら、飲ませてあげるといい……』  俺は、あわてて鞄を探った。幸いにも、抑制剤はあった。 「これ、飲め。……ええと、水もあるぞ」  ペットボトルと併せて差し出すと、三石は素直に、俺の差し出したカプセルを飲み込んだ。どうやら、よほど辛かったらしい。 「ありがとうございます……。すみません。全然その時期じゃないから、油断してて」  少しは落ち着いたのか、三石がぼそぼそと言う。 「俺らの年頃って、まだ発情が安定してないから、時期が狂いがちなんだよ」  母さんが明希に教えていたのを思い出しながら、俺は言った。 「ご迷惑をかけて、すみませんでした」  三石はよろよろと歩き出したが、足元は頼りなかった。俺は、眉をひそめた。 「無理すんなよ」  保健室が近かったな、と俺は気づいた。少し休ませよう……。

ともだちにシェアしよう!