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第9話
「だから、別に影響されてねえって。ほら、もう帰ろう。暗くなったら危ないだろうが」
「はい!」
三石は、あわてたように起き上がると、自分の鞄を引っつかんだ。だがまだ体がふらつくのか、鞄を取り落とした。バサバサ、と中身がこぼれる。
「……すみません!」
「本調子じゃねんだから、落ち着けって……」
言いかけて俺は、思わず口をつぐんだ。三石の鞄から出て来たのは、部で作った新聞の、バックナンバーの切り抜きだった。
「こ……、これは、違います! 学校行事の特集記事を中心に集めてただけです。それだけなんで!」
三石は、必死に記事をかき集めている。俺は黙って、それを手伝った。
――行事関係以外の記事も、たくさん混じってたよな……。
そう、それは全て、俺が書いた記事だった。でも俺は、それに気づかないふりをして、三石に腕を差し出したのだった。
「ほら、つかまってけ」
「子供じゃないんだし、平気です!」
「また鞄落っことされたら困る」
ぶつぶつ言いながらも、三石は俺の腕をちょんとつかんだ。指も手首もどこもかしこも細くて、やっぱりオメガだな、と思う。
――守ってやらなきゃな。俺はアルファなんだから……。
その手の温もりと、微かに香るオメガフェロモンをどこか心地良く感じながら、俺は奴と二人で学校を後にしたのだった。
白柳望大が、生涯の伴侶としてオメガ男性を両親に紹介するのは、それから数年後のこととなる。息子のパートナーと会った陽介は、内心「蘭に似ているな」と思ったのだった。
了
※作者より:お読みいただきありがとうございました。今回蘭の出番が少なかったので、次は蘭を主役にした番外を考えております。先になりますがこの後に続ける予定です。
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