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『子の心、親知らず』第1話

 爽やかな秋の空気が澄み渡るある日のこと。都内某所にあるマンションの一室では、穏やかな気候に似合わない罵声が響き渡っていた。 「お前ら、そろいもそろって何考えてる! そんなアルファに育てた覚えは無いぞ!」  声の主は、白柳蘭(しらやなぎらん)、50歳である。その前には、長身の体を丸めて正座している二人の若者がいた。長男・(かい)22歳、次男・望大(みひろ)21歳、いずれもアルファだ。そう、蘭は二人の息子たちから、オメガを妊娠させたと聞かされたばかりなのである。 「お互い好き同士なんだし、結婚すると言ってるんだから、そう怒るな」  なだめるように横から口を挟む夫・陽介(ようすけ)を、蘭はキッとにらみつけた。 「けじめってもんがあるだろ。大体、学生の身分で……」 「ああ、そのことなんだけど」  海が、おそるおそるといった様子で口を開く。 「僕、卒業したら帰国して父さんの秘書になるから。あやかも動画の収入があるし、子供が産まれても生活は何とかなるよ」  海の交際相手であるあやかは、母親・(ゆう)に似て料理上手なのだ。そこで料理動画を始めたところ抜群にヒットし、今や学生とは思えないほどの広告収入を稼ぎ出しているのである。 (親子そろって動画に縁があるよな……って、そうじゃなくて!)  すでに話は付いているといった様子で顔を見合わせる陽介と海を、蘭はじろりと見た。思春期は父親に反発していた海だが、いつの間にかしこりは取れ、すっかり父子関係は良好のようだ。それは喜ぶべきことだが、秘書になるだなんて初耳だ。何やらのけ者にされたようで、蘭はため息をついた。 「……って、おい、望大! 話は終わってないぞ。どうすんだ、三石(みついし)君は大学に入ったばかりだってのに!」  ドサクサに紛れて逃げようとする次男を、蘭は鋭い声で呼び止めた。

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