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第2話
「心配かけてごめん。でも大丈夫だから。俺、就活頑張って、必ず大手の新聞社に入る。……そりゃ、本当は母さんみたいなフリー記者になりたいけど、いきなりは無理だろ? だからまずは、どこかに所属するよ」
望大は決まり悪そうにしつつも、しっかりした口調で語った。
「……あ、日暮 は受けないから。母さんを辞職に追い込んだような会社だもんな。今、部数落ちてるらしいよ?」
「しょうもない点数稼ぎをしなくてよろしい」
蘭は一喝した。
「本音だって……。あ、そうそう、晃也 さんもいろいろ相談に乗ってくれるそうだから、安心して。やっぱり、兄貴って感じだよな。立場は俺の義弟なのに、変な感じ」
望大はくすくす笑ったが、苦虫をかみつぶしたような陽介の視線に気づいたのか、ぴたりと黙った。望大の双子の妹、明希 は、長年の初恋を成就させて、蘭の元同僚・稲本 と結婚したのである。昨年、20歳の時だった。明希が15歳の時、稲本が『あと5年』と口を滑らせたことで、明希は言質を取ったらしいのである。
「お前の意欲はわかった。でもな、俺が言ってるのは、三石君のことなんだよ。大学はどうするつもりなんだ? 子供を抱えて」
望大とその交際相手・三石夏生 が通うのは、国内でも屈指の名門大学の政経学部だ。三石は望大より二つ年下だから、まだ一年生のはずである。
「それは……、休学するって……」
言いづらそうに、望大が白状する。蘭は、カッとなった。
「やっぱりそうか! だから、何考えてるって言ったんだ。付き合ってる相手の人生に、そんな風に影響与えるなんて、お前はそれでも男か!」
夫・陽介が尽力しているとはいえ、まだまだオメガの社会的評価は高いとはいえない。そんな中で有名大に入るなんて、三石という子はきっと、能力も意欲も高いのだろう。
(それを狂わせるなんて……)
我が息子に限ってまさかとは思うが、無理なことをしたのではないか。蘭の不安は、エスカレートしていった。
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