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第6話

「明希ちゃん、料理の覚え、早かったよ。母親とは大違い」  からかうように言われ、蘭は頬を膨らませた。 「悪かったな」  「だからさ、蘭が思うより、子供たちはちゃんとしてるって話だよ。もっと信用してあげたら? 蘭も子離れしないと」  奇しくも悠は、陽介と同じ台詞を吐いた。 「そういえば、陽介先生は何て言ってんの?」 「息子たちの味方。アルファ同士の結束に見えて、仕方ないんだけど。でもって、孫ができる喜びに浸ってる」 「あはは。それはしょうがないんじゃない? いいじゃん。『孫のいるイケメン総理ランキング』でトップになれるよ」 「悠。お前、完全に面白がってるだろ」  蘭は、悠をにらんだ。陽介は最近、在職期間の長さに加えて、『イケメン総理ランキング』でも首位となったのである。 「とにかく、あんまり思いつめない方がいいよ。食欲無い? さっきから、全然食べてないけど」  悠はランチを用意してくれていたが、蘭はほとんど手を付けていなかった。食欲が湧かないのだ。おまけに何だか、胃のムカつきまである。 「あー、ごめん。昨夜食べたヒレカツが、まだもたれてて。せっかく作ってくれたのに、悪いな」 「そうなの? 気をつけなよ。僕ら、もう50なんだからさ」  悠は、心配そうに言ったのだった。 (悠に悪いことしたな……)  悠の家を出た後、蘭はやや罪悪感に浸った。好物をたくさん作ってくれていたのに、ちっとも食べられなかったのだ。 (胃薬を買うか? いや……)  蘭は、首をかしげた。いくら揚げ物を食べ過ぎたとはいえ、この食欲の無さはさすがに変だ。おまけに、ムカつきはひどくなる一方である。  そこで、蘭ははっとした。遠い昔、全く同じことがなかったか。あの時も、悠が作ってくれた好物を、蘭は少しも食べられなかった。 (まさか……)

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