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第12話

「それと。ヒートを起こしたことも、責任なんか感じなくていい。オメガの性なんだから」  蘭はそう続けたが、三石はちょっと顔をくもらせた。 「でも……。変な時期に起こしちゃって。何だか、先輩といると昔からたまにそうなるんですよね。普段は、全然狂わないのに……」  蘭は、ふっと笑った。 「夏生君。それはね、君らが『運命の番』だからだと思うよ」  蘭は、陽介と出会った頃のことを思い出していた。滅多に来ない、そして周期も狂わないヒートが、彼を誘惑しようとしたとたんに来た。照れくさいから、陽介の言葉はいつも認めないけれど、本当は蘭だって思っているのだ。自分たちは『運命の番』だと……。  三石は、真っ赤になってうつむいている。ややあって、彼はぼそぼそと言った。 「ご本人を目の前にして言うのは勇気が要るんですけど……、蘭さんって、素敵な方ですね」 「夏生君……」 「僕ね、実は僕、初めて会った頃、先輩のことマザコン呼ばわりしたことがあるんですよ」  三石が、唐突に言い出す。蘭は、きょとんとした。 「あいつを?」 「はい。先輩が、ご両親の教えを大事に守ってらっしゃってて、特に蘭さんの影響をすごく受けてる気がして、ちょっと妬いたんです。……すみません、馬鹿ですよね」 「別に、謝んなくても……。てかあいつ、怒ったろ?」 「結構根に持たれました」  三石が、こくりと頷く。蘭は、思わずくすりと笑った。 (何だか、この子とは上手くやってけそうだな……) 「もう義母(かあ)さんって、呼んでくれたらいいからさ。……ほら、食べて。妊娠中は、栄養を摂らなくちゃ」  蘭は、サラダの皿を彼に押し付けた。三石が、嬉しそうに微笑む。 「ありがとうございます! あ、蘭さ……お義母さんこそ」  蘭ははっとした。そうだった。自分も今や妊夫なのだった。

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