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第2話

「よし、こんなもんでいいかな。三石、お前どう思う?」  ペンを入れた記事を返すと、三石は嬉しげに微笑んだ。 「ありがとうございます! やっぱり白柳先輩のアドバイスは、すごく参考になります」 「おだてても、何も出ないぞ」  と言いつつ、俺もまんざらでもない。今日は早く来れたおかげで、じっくり記事を見てやることができて、俺は満足していた。  ちなみに最近までは、三石を待たせることが多かった。というのも、放課後になったとたんまとわりついてくる女たちを、追い払う必要があったからである。高校に入って以降、俺は女子から付きまとわれることが多くなった。中学時代も、手紙やプレゼントを渡されることはあったが、強引さは当時の比ではない。  俺を狙う女子たちには、二つのタイプがあった。まずは、ファーストレディー狙いのミーハー女。確かに、多くの有名政治家を輩出してきた白柳家の生まれで、しかも現職総理の息子とくれば、将来は政治家志望かと思われても仕方ない。  そこで俺は、こんな手を打った。彼女たちに向かって、公言したのだ。 『父の跡を継ぐのは、留学中の兄だから。俺は、母親と同じ道を行きたいと思ってる』  いや、(かい)兄さんがそう思ってるかどうかは、全く知らないんだけど。ていうかむしろ、父さんには反発しまくってるけど。でも、政治家を志す以上は、兄さんの気持ちがどうであれ、白柳の名字が物を言うに決まってる。だからこの台詞も、まんざら間違いじゃないのだ。  幸いにもその言葉を信じた女子たちは、てのひらを返して去って行った。俺が中高と新聞部に属していることからも、信憑性が高かったらしい。  だが、二つ目のタイプは厄介だった。白柳家の財産目当ての女どもだ。この手の女たちは相当しぶとかったが、そこへ思わぬ救いの手が差し伸べられた。違う学校に通う双子の妹、明希(あき)である。   明希は最近、家族全員のために、弁当を作り始めたのだ。可愛らしい手弁当を持参するようになった俺を見て、女どもは俺に彼女ができたのだと、都合良く誤解してくれたのである(ちなみにそれまでは、母さんが作った得体の知れない色合いの弁当を持参していた)。  本当に、妹さまさまだ。母さんは、家事の負担が減ったと喜んでいるし、父さんは、愛娘の手弁当が食べられる喜びで、舞い上がっている。俺も、女避けができてハッピーだ。  だから俺は、家族の幸せのために黙っているのだ。明希が俺たち家族に作る弁当は、稲本さん用の『ついで』に作られたものだということを。

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