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第16話

 不意を突かれて、俺はその場に固まった。 「最初は、私もアメリカが懐かしかったから。共通の話ができて嬉しいな、くらいだった。でも、ミヒロって頭がいいし、話してて楽しくて。だから、好きになったの」  うかつだったな、と俺は唇を噛んだ。これまで俺の周りにいた女子たちは、ボディタッチやら手作りお菓子やらで、遠回しのアピールをしてくる奴ばかりだった(もっとも、本人たちは遠回しと思っているだけで、下心は透け透けなのだが)。深沢にはそんな気配は無く、いつもあっさりと接してくれていたから、まさか俺のことをそんな風に思っているとは夢にも思わなかったのだ。 「私じゃダメかな? 勝手に噂されてるのは知ってるけど、ミヒロ自身はどう思ってるのかなと思って……」  深沢は、真剣に言葉をつむいでいる。こんな風にストレートに告白されるのは、久々だ。どうしよう、と俺は思った。 (いい子なんだけど。話していても、楽しいし……)  海外暮らしが長いせいで、深沢は白柳の家のことを何も知らないのだ。これまで『白柳家の息子』としてしか見られてこなかった俺にとっては、新鮮で気楽だった。でも、彼女が恋愛対象かと言われると、それは違う気がした。 「……ごめん」  しばしの沈黙の後、俺は頭を下げた。 「気持ちは嬉しいけど、深沢のことは、友達としてしか見れない」  一瞬、深沢が絶句する。傷つけただろうか。だが数秒後、彼女はこわばった笑みを浮かべて、こう言った。 「……それは、今まで意識してこなかったからじゃない?」 「深沢……」 「友達だと思い込んでるから、そうとしか見れないんだよ。……だから、意識してみて。私が、女の子だって」  次の瞬間、信じられないことが起きた。深沢が、俺に抱きついてきたのだ。 「――おい、放せよ!」  まずいという思いと、女子に手荒な真似をしてはいけない、という思いが交錯する。逡巡した隙に、深沢の腕が俺の首に巻き付いてきた。彼女の唇は、目の前だ。 「放せ……!」  今度こそ突き飛ばそうとした、その時だった。部室のドアがガラッと開いた。  「――先輩……?」  大きく目を見開いてそこに立っていたのは、三石だった。

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