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第17話

「……す、すみませ……」  三石は、見るからにうろたえている。俺は、あわてて深沢を振り払った。 「三石。今のは……」 「僕、先輩に報告したいことがあって……。部室へ行かれたって聞いて、それでここへ来たんですけど……。い、一応ノックはしたんです! でも返事が無かったから、それでつい……」  三石は、消え入りそうな声でそう告げると、くるりと背を向けた。 「お邪魔しました!」 「おい、三石!」  三石は、呼び止める俺を無視して、あっという間に走り去って行った。俺は、深沢をキッとにらみつけた。 「おい。何だよ、今の真似は!」 「ごめんなさい」  深沢は、ぽつりと言った。 「どうしても、ミヒロに振り向いて欲しかったから……」 「だからって、俺の気持ちを無視していいわけないだろ」  俺は、ぎゅっと拳を握りしめた。 「お前とは付き合えないし、今度同じようなことをしたら、さっきの言葉も訂正する。もうお前とは、友達ですらいられないからな!」 「……わかった」  深沢は、頭を垂れた。さすがに気の毒になり、俺は謝った。 「……ごめんな」 「ううん。ミヒロの言うことはもっともだよ。私も、焦って馬鹿な真似をしたなって思ってる」  じゃあね、と告げて深沢が歩き出す。部室を出る瞬間、彼女は小さくつぶやいた。 「――やっぱり、あの子が大事なんだ」 「……え?」  聞き返す間もなく、深沢はするりと姿を消した。やや気にはなったが、それよりも急ぐのは三石だ。俺は、続いて部室を走り出ると、廊下の窓から外を見下ろした。 (どこへ行った……?)  まだ遠くへは行っていないはずだ。案の定、見慣れた小柄なシルエットが、中等部の方へと走って行く。俺は、全速力で駆け出した。  廊下ですれ違った教師が何やら注意していた気もするが、それどころではない。大あわてで一階へと降り、三石を追う。奴も一生懸命走っていたが、そこはアルファとオメガだ、脚力は雲泥の差である。徐々に、距離は縮まっていった。 (頼む。説明させてくれ……)  同級生たちの間で深沢との噂が立とうが、正直どうでもよかった。でも、三石には誤解されたくなかったのだ。 (何でかわかんねえけど……)  三石が、体育館の裏手に入るのが見えた。新聞部の部室への近道だから、通り抜けようとしているのだろう。ようやく追い付いた俺は、三石の肩をつかんで振り向かせた。 「――三石!?」  俺は、目を疑った。奴の瞳には、大粒の涙が浮かんでいたのだ。

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