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第18話

「――! せんぱ……」  俺が追いかけてきたことに驚いたのだろう。三石は目を見張ったが、すぐに早口で話し始めた。 「すみません、わざわざ。僕ね、新聞部の次期部長に選ばれたんです。それを白柳先輩に報告したくて、伺いました……」 「何で泣いてる」  俺は、三石の言葉をさえぎった。信じられなかった。人一倍勝ち気なこいつが、泣くなんて。中一の時、三石は複数のアルファに襲われたことがある。その時だって、泣きはしなかったのに……。 (もしかして……)  俺は、三石の涙をそっと指でぬぐった。 「さっきの女子のせいか? あいつとは、何でもない。向こうが強引に抱きついてきたんだ。 お前が、たまたまそこへ入って来て」 「――でもあの人、先輩の婚約者なんですよね?」  中等部にまで伝わっていたのか、と俺は内心ため息をついた。 「あれはデマだよ。ちなみに、今日彼女から告白されたけど、断ったから」 「そう、だったんですか……」  三石は、呆然としている。俺は、そんな奴の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「そ。だからいい加減、泣き止めよ」 「ち、違います! 何勘違いしてんですか」  三石は、我に返ったようにあわてふためき始めた。 「うぬぼれないでください! 先輩が女性と抱き合ってたからって、何で僕が泣かないといけないんですか!」 「だから抱き合ってねーし。それに、違うって言うなら、その涙の理由は?」 「こ、これは……、嬉し涙です! 名誉ある新聞部の部長に選ばれたんですから!」  確かにうちの学校の新聞部は、コンクールでも数々の受賞実績があるくらい有名だ。部長に選ばれるには、飛び抜けた実力が必要である。俺を含め、歴代の部長はずっとアルファだった。オメガというハンデをはねのけて選ばれるには、相当の努力が必要だったことだろう。とはいえ、さすがにその言葉に騙されるほど、俺は馬鹿ではない。 「まー、あくまでお前がそう言い張るんなら、そういうことにしといてやってもいい。……でもな」  俺は、三石の肩に手を置いて告げた。 「頼むから、泣き止んでくれ。でないと、俺が辛いんだ。……お前が、好きだから」

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