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第19話
「先輩……」
三石の目が、これ以上無いほど大きく見開かれる。その瞳を見つめて、俺は続けた。
「お前と一緒に過ごすのが、俺は一番好きなんだよ。どんな女よりも、お前がいいんだ。頼ってくれるのも嬉しいし、大事にしてやりたいって思ってる……」
言いながら俺は、もやもやが晴れていくのを感じていた。何もかも、納得だ。傷つけたかと、気になって仕方なかったのも。村井といる所を見て、苛立ったのも。深沢とのことを誤解されたくないと思ったのも……。
(俺は、こいつ が好きなんだ……)
「でも、余計なことを言って傷つけたかもって、ずっと悩んでた」
「……え?」
それまで硬直していた三石が、突如目をぱちくりさせた。
「ほら、護身術はどうだ、なんて言ったろ? あの後からお前、様子が変だったじゃんか。お前ってバース差別に敏感だし、気を悪くさせたかなって……」
「……ああ、あのことですか。全然、気にしてません。ていうか、むしろ逆ですよ」
三石は、ようやく笑顔を見せた。
「先輩が僕を気遣ってくれるのが、嬉しかったんです。あんまり感動しすぎて、どうリアクションしていいかわからなくなっちゃって。それでちょっと固まってました」
「何だよ、紛らわしいな」
俺は、脱力した。
「それっきり喋らなくなるし、相談にも来なくなるし。てっきり、怒ったかって思うじゃんかよ」
「すみません」
ぼそぼそと、三石は謝った。
「相談に行かなくなったのは、村井さんから部長の引き継ぎを受けるので、忙しかったんです。先輩には黙っていて、驚かせようと思ってました。昨日、ようやく最後の引き継ぎ作業が終わって。村井さん、頑張れよって激励してくれました」
頭を撫でられていたのはそれか、と俺は腑に落ちた。そういえば、俺自身が村井に引き継ぎをしてやったのも、去年の今頃だったか。すっかり忘れていたが。
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