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『ジャスト・サイズ』おまけ 第1話
※陽介視点のおまけです。望大が陽介に相談した翌日のお話です。
その日の深夜、某国総理大臣・白柳陽介は、いそいそと台所で立ち働いていた。愛しい妻・蘭が地方での取材旅行から帰ってくるため、夜食を用意してやっているのである。
(よし、こんなものかな)
雑炊を味見して、陽介はうなずいた。食卓の準備を整え、一人席に着く。後は妻の帰りを待つだけだ。双子の子供たちは、すでに自室で眠りについた様子である。
(それにしても、子供の恋愛相談に乗ってやる日が来るとはなあ)
昨日の望大との話を思い出して、陽介は頬を緩めた。三人の子供たちは皆真面目でいい子だが、あまりに浮いた噂が無いのもつまらないと思っていたところだった。長男・海は父親の自分に反発しまくっていて、何か相談してくるどころではない。第一、現在はその名の通り、海の向こうだ。
(ま、あの子は幼なじみとすんなりまとまるだろうし)
一抹の寂しさを押し殺して、陽介は無理やりそう結論づけた。自分の親友兼秘書である男と、蘭の幼なじみである相沢悠の間の長女・あやかである。小さい頃からませた発言ばかりしていたが、海のことを真剣に想っていることは確かだ。結婚したらしっかりした女房になりそうだし、あの二人のことは放っておいてもよかろう。
問題は、望大の方だった。生まれつきの性格に加えて、総理の息子という立場を意識しているのだろう。幼い頃から品行方正を絵に描いたような子供だった。それは喜ばしいことだが、高校生になっても色恋の気配が無いことは、父親としてやや心配していたのだ。昨夜相談を持ちかけられた時は、内心小躍りしたい気分だった。
(もっとも本人は、自分が恋愛相談をしているという自覚も無いようだが)
おくてにも程がある、と陽介はため息をついた。おまけに指摘すれば真っ赤になって、噛みついてくる始末。そう、その姿は見事に母親そっくりであった。
(まあ、そこが母子ともども可愛いところなんだが……)
何はともあれ、そういう相手ができたなら、応援してやらねばいけない。何か進展があれば是非聞き出してやろう、と陽介はほくそえんだ。
(……そして明希はまだ、そんな気配は無いな)
長女の明希は、陽介の主張で、今年から女子高に通っている。もちろん、悪い虫が付かないようにという狙いだ。共学へ進みたいとごねるかと思ったが、本人は案外すんなり納得した。つまりまだ恋愛に興味は無いのだろう、と陽介は解釈していた。ネンネと世間は言うかもしれないが、父親としてはいつまでもそうであって欲しい。
(順調だ。実に順調だ)
陽介は深夜のダイニングで一人、高らかな笑い声を上げたのだった。
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