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第3話
とはいえ仕事に関しては、夫も妻も無い。それに不正を行う輩は、たとえ身内でも厳しく処罰すべきだ。
(取りあえずは、野党の追及をどうかわすかだな……)
陽介が段取りを考えていると、蘭は鞄を開けて、書類を取り出し始めた。いつの間にやら、雑炊の皿は空だ。
「早速続きをやるのか? 少しは休め。疲れただろう」
陽介は眉をひそめたが、蘭はかぶりを振った。
「いや、気になるからやっちゃうよ。えーと……」
バサバサと、蘭が書類をめくる。その時隙間から、ひらりと小さな紙片が飛び出した。何気なく手にして、陽介は目を見張った。
「蘭。これって……」
「か、返せよ!」
蘭が、大あわてで紙片をひったくろうとする。それをひょいとかわして、陽介は書かれていた内容を読み上げた。
「領収証、△△ホテル、ねえ。……蘭、君、昨夜ここに泊まったのか?」
ちらりと見やれば、蘭は耳まで赤くなっている。昨日の望大の表情が重なった。
「山陰とは聞いていたが、まさかな……」
陽介は、感慨深い思いでホテル名を見つめた。それは陽介にとって、忘れられない名前だったが、蘭も同様だったとは。
「もー、誤解だって!」
ヤケクソのように、蘭がわめく。
「別に、お前と初めて泊まったホテルで思い出に浸りたい、とかじゃないからな! たまたま、取材場所に近かったんだよ!」
(ああ、デジャヴだ)
再び望大の姿を思い出して、陽介は笑いをこらえた。
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