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第4話
陽介は、そっと蘭の手を握った。
「そうか? 俺は、思い出に浸りたくなってきたが」
「おい……」
「というわけで、久しぶりに一緒に風呂に入らないか? 続きは明日でいいだろう。子供たちも、もう寝たことだし」
「ったく。このスケベが……」
ぶつぶつ言いながらも、蘭は案外素直に書類を片付けた。気が変わらないうちに、と陽介は腰を浮かしかけたが、蘭は引き留めてきた。
「何だ?」
「あー、いや……」
蘭はうつむいて、ぼそぼそと告げた。
「実は俺、ちょっと後悔してたんだよな。お前との初めてが、あんな安っぽいビジネスホテルになっちまって。俺が、あんな計画を立てたせいでさ……」
陽介は、一瞬絶句した。まさか蘭が、そんなことを気にしていたとは思わなかった。
「なあ、蘭」
再び腰かけると、陽介は蘭を見つめて微笑んだ。
「実は昨日、望大に話していたんだ。俺には今まで、オメガを口説いた経験が無いって」
「はあ? 何だよ、唐突に……。てか、何話してんだよ、アルファ同士で」
蘭が、眉をひそめる。それに構わず、陽介は続けた。
「でも、もしあの時君が俺を誘わなかったら、君は俺が口説いたオメガ第一号になっていただろうな。……講演に来てくれる君のことは、ずっと気になっていたから」
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