52 / 58

第4話

 陽介は、そっと蘭の手を握った。 「そうか? 俺は、思い出に浸りたくなってきたが」 「おい……」 「というわけで、久しぶりに一緒に風呂に入らないか? 続きは明日でいいだろう。子供たちも、もう寝たことだし」 「ったく。このスケベが……」  ぶつぶつ言いながらも、蘭は案外素直に書類を片付けた。気が変わらないうちに、と陽介は腰を浮かしかけたが、蘭は引き留めてきた。 「何だ?」 「あー、いや……」  蘭はうつむいて、ぼそぼそと告げた。 「実は俺、ちょっと後悔してたんだよな。お前との初めてが、あんな安っぽいビジネスホテルになっちまって。俺が、あんな計画を立てたせいでさ……」  陽介は、一瞬絶句した。まさか蘭が、そんなことを気にしていたとは思わなかった。 「なあ、蘭」  再び腰かけると、陽介は蘭を見つめて微笑んだ。 「実は昨日、望大に話していたんだ。俺には今まで、オメガを口説いた経験が無いって」 「はあ? 何だよ、唐突に……。てか、何話してんだよ、アルファ同士で」  蘭が、眉をひそめる。それに構わず、陽介は続けた。 「でも、もしあの時君が俺を誘わなかったら、君は俺が口説いたオメガ第一号になっていただろうな。……講演に来てくれる君のことは、ずっと気になっていたから」

ともだちにシェアしよう!