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第2話 そこは木の上でした。

 スマホの画面に映る通信エラーの文字を見ると、ちょっと不安になる現代っ子の俺。 「雄吾、蒼士、助けて…。」  そう言えばあの時、雄吾の慌てた声もしてたっけ。いつも落ち着いているあいつが、あんな声を出すなんて。 「ゴキブリでも飛んできてたのかな?。」  まあ、話し中にこんなことになったんだ。明日くらいには、きっと雄吾も俺のことを探しに来てくれるさ。  アプリに着信があることに気づいてタップすると、俺と雄吾と蒼士のグループメールに蒼士から変なイラストが送られていた。可愛くないハムスターの敬礼ポーズ…。  時刻はちょうど俺と雄吾が話をしていた頃だ。 「蒼士はなにを伝えたかったんだ?。」  いつもイラストと話題がちぐはぐな蒼士のことだ、本人に聞かなければ、絶対に正解にたどり着かないだろう。  試しにメッセージを送ってみたが、送信エラーの文字が帰ってくるだけだった。 「とりあえず、寝ようかな。」  俺の車には、後部座席に友達と遊ぶセットと、後ろのトランクに簡易だけどキャンプセット+トレランセットが常備されている。 “遊ぶセット”は、飲みに行くのも車がないと不便な地域だから、友達と飲んだあとは酔いがさめるまで駐車場で一晩仮眠を取ることも多くて、毛布や水や携帯おつまみなんかが積んである(置きっぱなし)。 “キャンプセット”は、こんな田舎に住んでいると、仲間内で遊ぶ=アウトドアが多くて、片付けるのも面倒だから良く使うものが積まれてある(置きっぱなし)。 “トレランセット”も似たようなものだが、俺の趣味に関係してくる。俺は雄吾に誘われて、トレイルランニングをしているんだ。  雄吾はサークルに所属もしているんだけれど、俺は就職と共に保育士の仕事量についていくのが必死で、今では誘ってもらって、できそうなレースに参加したり、週末に雄吾や蒼士と一緒に走ったりする程度。  トレイルランニング(略してトレラン)は森林の中を走るスポーツで、距離が長くて時間もかかるので、バックパックに水や食料などを入れて、それを背負って走るんだ。  俺が出るレースは短距離が多いけれど、ナイトランは夜走ったりもするんだ。山道や林道など、いろんなところを走るのが楽しくて、気持ち良くて、なにより雄吾達と走るのが楽しくて、続けているんだ。  今回は雄吾と二人で一泊しながらロングトレイルの計画だった(日にちを間違えてたけれど)  * * *  スマホも使えないし、動けないなら寝るしかないだろう。目が覚めたら夢だったってことも、ワンチャンあるかもしれない。  あんまり動くと、車が傾いて落ちてしまうかもしれないと言う怖さから、俺は静かに後部座席に置いてある“遊ぶセット”のケースから、薄手の毛布とおつまみを取り出し、座席のシートを倒してみる。  しばらく静止。  耳を澄ましてギギギギギ~と言う音も、車の傾きもないことを確認して、毛布を被る。  毛布の温かかな感触が心地良い。  一応取り出したおつまみも、食べる気力はなくて、毛布を被ったまま横を向いてみた。 「上を見ても天井が邪魔をして星空が見えないのは残念だなぁ。あんなに綺麗な星空なのに。」  虫の声を聞きながらの車中泊。隣に雄吾や蒼士達が居てくれたのなら、こんな状況でも楽しめたに違いない。  何度目かのため息をつきながら、俺はもう一度スマホを起動して、通信エラーの文字を確認すると、スマホの電源を落とした。そして、頭まですっぽりと毛布を被ると、背中と両足を丸めて、目を瞑った。

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