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第4話 森を抜けるのが目標です。

「俺が車をこんな大木に乗せられるわけがない。って、警察だって分かってくれるよな。」  そのためには、誠意=自首?、自己申告?、が大事だろう。  とりあえず、通信できるところまで下山して、助けを呼んで、通報される前に警察に行こう。 「よし!、きまり!。」  プランが決まったら実行だ!。  どっちの方角に歩くのが良いか、木に登って確かめよう。  俺は携帯食を食べて空腹を満たすと、もう一回桜の巨木に登ることにした。  俺は車から垂らしてあるロープを掴むと、思いっきり引っ張ってみた。  よし、車もガッチリ安定していて、木もびくともしない。俺が体重をかけて登っても、ぜんぜん大丈夫そうだ。 「よいしょっと。」  違うから。年寄りではない。  掛け声をつけた方が、身体が良く動くんだよ。昔から。  俺はロープに腕を絡ませつつ、桜の木を足掛かりに車の中に戻ると、更に車の屋根に登り、立ち上がった。 「うっわ、絶望的~。」  見えるのは木、木、木。こんな太くてでっかい桜の木なのに、周囲の木も高いから遠くが見通せない。  こうなったら、ここを拠点に探っていくしかない。そもそも、こんな巨木の桜、俺はこの地域に住んでいて聞いたことがない。  ここはいったいどこなんだろう?  前人未到な深い山中なのか、実はどこかの神社の裏山なのか。  遭難したときは下手に動くな。助けを待て。  よく雄吾に言われた言葉が頭をよぎる。  俺は、いつもはめている腕時計に目を向けて考える。  俺の腕時計は、実は、登山者向けの超高級GPS機能付きなのだ。  二十歳の誕生日に雄吾と蒼士が、絶対持っておけと、プレゼントしてくれたんだ。こんな高級品貰えないと断ろうとしたけど、全て却下され、悪いと思うなら肌身離さず持っておけと言われたんだよな。  こいつがあれば、実は移動しないでこのまま救助を待っていた方が、遭難リスクが低く救出されやすいのではないだろうか?。   スマホが通信エラーで使えなくとも、こいつさえあれば、衛星から場所を特定してもらえるのではないだろうか?。  雄吾だって、絶対俺を探してくれている。  あぁ、どうしよう。俺、月曜日にこども園に出勤できるだろうか。不意に可愛い子ども達の顔や、同僚の先生達、ついでに母さん、主任、運動会のスケジュールが頭の中をよぎる。 「だめだめ、休めんて。一刻も早く脱出して自首できるように頑張ろう!。」  俺は待機案を振り払い、車のドアに鍵をかけると、再び下に降りた。  今度はグローブ着けてたもんね!。  山中を歩くにはトレランの服やシューズは絶好のアイテムだ。俺は服とシューズを着替え、キャップを被り、ショートグローブを着け、方位磁針とメモ帳を取り出した。  食料と水よーし。スマホとライトと充電器よーし。ナイフよーし。  それらをバックパックにつめて担ぐと、とりあえず南から歩くことにした。  頼みのGPSウォッチは、起動してスマホと連動させてみたけど、エラーの文字。ここは妨害電波でも出ているのか?。  俺の知識の中では、連続するエラーの文字に、機能を回復させるスキルはない。  ただの腕時計と化して、俺の腕に装着している…。  だがしかし、実は俺は、方位磁針も持っているのだ!。無いよりは全然心強いし、方角を確認しながら進めば、ここにも戻ってこられるだろう。  持ってて良かったアナロググッズ。  気を取り直して、いざ進まん!。西宮こども園の子ども達のために!。  気合いを入れて木々の間を進もうとしたとき。俺の目の前をよぎる影が走った。

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