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第11話 信頼関係。
ピピッ、ピピッと、時計のアラームが12時を告げる。
「グワッ。」
銀様が飛び退き、尻尾を立てこちらを見る。
「くっくっくっ。
大丈夫だよ、銀様。今のは時計の音だから。」
俺は、笑いをこらえながら、腕時計を指して時計を銀様に見せた。
「グルルルルッ。」
銀様は本当か?、と、いぶかしんだ様子で俺を見る。
尻尾をパシンパシンと自分の身体にぶつけ、ご立腹のようだ。
「やっぱり俺って、銀様に信用されてないんだな。」
俺の行動の一つ一つをよく見ている銀様。
俺も銀様のことをまるっと信用しているわけではないから、お互い様かな。
きっと、この森の主でもある銀様は、俺が森に悪さをしないか、よく観察をしているんだと思う。銀様のお眼鏡にかなうと良いんだけどな。
これで黒判定が出たら、がぶりと喰われちゃうのかな、俺。
「そんなことより、お昼にしようか。銀様。」
不安を振り払い、俺はバックパックから水と携帯食を取り出した。イオン飲料はさすがに動物の身体に悪いと思うから、銀様には水を小皿に入れてやるとして、さて、携帯食は犬に食べさせて良いのだろうか?
そんなことを考えながらタオルで汗を拭き、ペットボトルの水を小皿に注ぐ。
「銀様どうぞ。」
その様子も、じーと観察するような鋭い目付きの銀様。差し出したお皿に、口を付けようとしないどころか近づかない。
あらら、やっぱり野生の動物は、人間の出す食べ物に口をつけないのかなぁ。
「大丈夫。ただの水だよ。」
銀様に声をかけながら、お皿の水を少し飲んで見せる。
「喉渇いただろ?、どうぞ。」
銀様は、今度は近づいてお皿と水の匂いを嗅いだ。そして、銀様は俺の方を見て、それからペロッと水を飲んだ。
うおっ、飲んでくれたよ。感動だなぁ。
俺は内心、ガッツポーズを取る。
それから、固形の携帯食を出して、成分表を見る。
うーん、どの成分が良くて悪いのか、分かんないなぁ…取り敢えずプレーンならいいかなぁ?
こんな時こそスマホ検索できれば良いのになぁ。
そんなことを考えながら、一本取り出す。
「銀様、これ、食べてみる?
一般のワンコにはあげちゃだめだと思うんだけど、銀様は身体も大きいから、少しくらいなら栄養取りすぎにはならないと思うんだけど、自信がないから、無理には薦めないよ。」
俺が差し出すと、銀様は鼻を近づけて匂いを嗅いでいたけれど、ペロッと舐めた。
おおぅ。手からのお食事。銀様、感動過ぎる!!。
なんだか尊いものを見た気分だよ。
心のなかで両手を合わせる俺。
だがしかし、俺の感動を尻目に、味が気に入らなかったのか、銀様は一舐めしただけで、食べるのをやめてしまった。
「グルル、グルルルル、ワゥ、グルル。」
「銀様、なに言ってるか分かんないよ?。」
銀様は少しウォンウォン鳴いていたけれど、突然、
「ウウォーーーーン。」
と、とてつもなく大きな声で吠えるので、俺も、身体がビリビリするぐらいビックリして、耳をふさいで、呆然としてしまった。
なんだ?。怒ったのか?。黒判定されたのか?。
俺が戸惑っている間も、
「ウォーン、ウォンウォンウォーーン。」
と、遠吠えを続けた。
銀様は尻餅をついて呆けている俺の顔をぺロリと舐めた。わゎっと、驚く俺の口のなかもぺロリと舐めると、西に向かって歩き始めた。
「え、銀様どこ行くの?。」
俺の声かけに振り向いて、
「グルル。」
と、銀様は答えてくれたけど、そのまま西の方角に駆け出して行ってしまった。
その後、俺は、きっと銀様は自分でエサを調達するのだろう。しばらくしたら帰ってくるさ。そう思い込もうとして、携帯食を齧って栄養補給をした。
しばらく待っていたけれど、帰り道のことを思うと、待つのも限界があり、俺は帰路に就いた。
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