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第17話 ポップアップテントでポン
「ウォン、ウォン。」
俺が車の中で毛布にくるまって横になっていると、鳴き声が聞こえた。
銀様だ!。帰ってきてくれた。
「!、!。」
俺は銀様の首に抱きつく勢いで、帰還を喜んだ。
銀様も走ってきたのか、心臓の鼓動が早い。
不思議だ。銀様の獣の匂いが、最初はすごくぞわぞわして怖かったけれど、今はこの匂いを嗅ぐと、こんなに落ち着く。
俺がダメな奴で、銀様を頼りにしようと、依存しようとしているからだろうか?。
俺って言う人間は、なんて打算的で嫌な奴なんだろうな…。
そんな俺の醜さに気づかない銀様は、口にブドウの房を咥えていて、それを俺に差し出す。
俺は、お礼の気持ちと共に銀様の耳辺りをもふもふしながら、ブドウを受け取った。
一粒皮を剥いて食べてみる。
よく熟れていて美味しい。
銀様!。これ本当に美味しいよ。俺なんかのために探してきてくれてありがとう。
そんな気持ちで笑顔を銀様に向けた。
俺が一口食べるのを見届けてから、銀様も干し肉とドライフルーツを食べはじめた。
* * *
俺が持っているテントはポップアップテント。
登山するには向かないんだけど、遊びで使うにはちょうど良い。お前にはこれで十分だって、雄吾が選んでくれたやつだ。
銀様は俺の設置したポップアップテントに凄く驚いていて、ひとしきり匂いを嗅いで、前足で触れていた。もう一回見せてくれと言わんばかりに俺に鼻先を押し付けてきて、実は3回披露したんだよね。
その間尻尾と耳が忙しく動いていて、可愛いなと思ったのは俺だけの秘密だ。
銀様をテントに誘うと、テントはとたんに窮屈になった。でも、銀様の横に俺がちょこんと寝るだけなので大丈夫。
銀様の毛並みが心地よく、その体温が温かくて、とても安心する。
銀様は時折、俺の頬をペロペロと舐める。
くすぐったくて、俺が笑うと、口を舐める。
もう、口の中はダメなんだからね。
銀様は銀様の彼女の口を舐めなよね。と、言葉が出たら言えるのに。
今だけは甘えて寝ちゃうことにする。
今日だけ、今だけ、銀様に甘えたい。
良い大人が、野犬に甘えるとか普通にダメだろう。
でもさ。俺、明日からはまた頑張るから。
明日から、俺は、元気に頑張るからさ。
今日だけは、ごめんね。ごめんね。
甘えさせて。
銀様から香ってくる、その良い匂いに、俺を包んでいて。
俺は、本当にずるくて、情けない大人だ。
明日からは、また元気に頑張るから…。
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