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第18話 考察、この世界と野犬の正体
ピピッ、ピピッとアラームが鳴って、起床。
朝4時。まだ日の出には早く、外は暗い。
銀様も頭を上げる気配がする。
おはよう、銀様の首筋を挨拶代わりにもふもふと撫でた。
銀様も俺の頬をペロリと舐める。
あれ。俺ってば何だか頭がおもい。おまけに頭と目の奥が痛い。
腕時計の体温は38度以上。
今日から元気に頑張るって言ったのに、ダメな俺…。
どうりで昨日は食欲わかなかったわけだ。
俺が暗闇の中で、時計のライトをつけて文字盤を見る様子を、じっと見ていた銀様だったけど、尻尾をふわん、ふわんと揺らし、また伏せて寝の姿勢をとる。
寝なさいってことかな?
俺は、風邪がうつってはいけないからと口パクでハフハフと伝えながら、銀様をテントから出そうとした。
「!。」
銀様がグイっと喉元を伸ばして、俺の頭に銀様の頭を乗っけてきたから、俺はべシャッとつぶれて銀様の下敷きになってしまった。
俺は観念してそのまま寝ることにした。
俺のそんな態度に、良い子とでも言いたげに、銀様が尻尾でふさりと俺の身体を優しく撫でる。ついでに俺の頬を舌で舐め、口の中を舐めてくる。
口の中はやめてと伝えつつ、俺は、銀様の毛皮に包まれながら考える。
今日は月曜日。
本来だったら、子ども園に出勤している日。
でも、俺は気づいてしまった。
今俺が見ることのできる空と、雄吾や蒼士たちが見ている空は違うんだと。
母さんごめん。どうか、心配しすぎて倒れませんように。
こども園の先生たち、迷惑かけてごめんなさい。
子ども達ごめんな。先生がいなくても、運動会を頑張って欲しいな。
雄吾と蒼士も俺を心配して探してくれるだろう。なのに見つかってあげられそうにないよ。本当にごめんな。
銀様に俺の目を舐められて気づいた。
俺、また泣いちゃってたのか。
へへ、銀様ありがとうな。でも心配しないで。
もう昨日いっぱい泣いて、あ、甘えさせてもらって、今日からは、元気に頑張るって決めていたから。
俺は、お礼の気持ちを籠めて、銀様の首に手を伸ばし、もふもふした。
でもさ、二度と戻れないとは限らない。どこかに方法があるはずだと俺は思うんだ。
俺は、土曜日が好きだ。
次の日も休みって思うと、のんびりと好きなことをして過ごせる気がして、心の、そんな余裕が好き。
そして、のんびりと過ごす土曜日を確保するために、1週間を頑張る。俺は、そうやって頑張ることが好き。やる気が湧き出てきて、毎日が光りかがやくように思えて、そうやって思える自分のことも気に入っている。
だから、あのサルにされたことをいつまでも引きずっていたくない。生と死、食うか食われるかの異世界に来てしまったことに絶望したくない。
銀様みたいに、俺に味方してくれる獣だっていてくれたんだ。そうだよ。こんなことでくじけたくない。
絶対、帰り方を見つけるから。
これが俺の最終目標だよね。
目標があれば、俺はまだ頑張れる。心配してくれるみんなのために、絶対帰るからね。
だから、風邪なんて引いている場合じゃないんだけどなぁ…。
近々の目標はやっぱり下山。
ここが異世界なら、知らない人達に会ってみたい。
どんな文化でどんな言葉を喋るんだろう。
銀様が持ってきてくれた革の袋の中には、保存のきく食べ物と衣服と薬?が入っていた。
服は動きやすそうなチェニックとズボンと下着だった。
ボタンとかゴムはなくて、ひもで縛るタイプだ。
素材も綿のようだし、縫製されていた。
ってことは、ちゃんとそういう文化が発展しているのだろう。
銀様が持って来てくれた薬はまるでRPGのゲームに良く出てくる回復ポーションみたいだったし。
ヤバい、何だか楽しくなってきたぞ!。
動物が巨大だったり、3つ目だったりはビックリだけど、俺の知らない動物たちに出会えるかも。
と、思いを巡らして、はたと気づく。
ここが異世界なら、日本じゃないなら。
もしかして、もしかしなくても、銀様って野犬じゃなくて、実は狼なんじゃ?
俺はもう一度がばりと起きて、銀様の顔をまじまじと見る。
シベリアンハスキーのような頑丈なからだと顔つき。
尖った耳と鼻。
一見、人相の悪い三泊眼、そして金目…
これはやっぱり、狼でしょう。
「う、う、ゴホ」
ねえ、銀様って狼なの?。そう、聞きたいのに声が出ないって辛い。
俺の様子を見ていた銀様は、鼻息をフンスと吐き出すと、また頭を乗せてこようとしたので、あわてて寝直す。
そんな俺の様子に、銀様は良い子とばかりに、俺の頬をペロリと舐める。
俺はそのまま目を閉じて二度寝をするのだった。
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