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第20話 野鳥との遭遇

 ドカッ!!  地面が揺れる勢いで爆音がして、俺は飛び起きた。  時計を見るとまだ昼前だ。  銀様がいない。 「グワッ。」  銀様の声?。  バサッ、バサッと言う音もする。大型の生き物の気配だ。  心臓が早鐘を打つ。  銀様やサルと出会ったときの怖い気配だ。逃げろと頭の中に警鐘がなる。 「ガウ!、ガウ!ガウ!。」 「ピィーーーッ!。」  獣の唸り声がビリビリと伝わってくるようだ。  銀様が戦っている。  ここにいると、きっと俺は足手まといだ。  テントから出て、巨木の幹の陰に隠れよう。  俺は、震える身体をしかりつけながら、近くに置いてあったバックパックを背負い、シューズを履く。  その時、テントが突風に煽られて、俺はテントごと転がった。 「はっ。」   勢いが殺せず、俺はテントの外に投げ出されてしまった。  そこで見たのは、これまたでかい鳥。  鷹?、鷲?、くちばしを大きく開け、銀様を威嚇している。  サルもでかかったけど、これもでか過ぎるだろう。  2m級の銀様が、簡単に空に運ばれてしまうのではないだろうか。翼の長さは全長8m以上ありそうだ。  ドクンッ。  鳥と目が合ってしまった。その瞬間、血液が一気に心臓を駆け巡る。 「はっ、はっ、はっ、はっ。」  うまく息が吸えなくて苦しい。  ドカンッ。  また、眩しい光と共に空気が揺れてビリビリと地鳴りがした。  なに?。今の銀様がやったの?。  銀様を見ると、銀様は俺の方に駆けつけようとしていた。  銀様の金色の目が光る。  ドカッ!、ドカッ!、と鳥に向かって雷が落ちる。  鳥は翼を操作し、落雷を避けて滑空している。  鳥の翼からもつぶてのような物がいくつも銀様に向かって落ちてくる。  銀様が避けると、バババッと地面に被弾する。  土が飛び散る様子から、相当な威力があることがわかる。  鳥の翼から突風が生まれ、俺に襲いかかる。  俺は、地面に伏せて飛ばされないようにするけれど、身体の下に風が入り込み、俺を浮かせようとする。  俺は耐えきれず、更に10mくらい転がって、ますます銀様から離されてしまった。  空に稲妻が走り、風が吹き付ける。  強い光に目が眩む、耳が痺れる、空気が震える。  俺はたまらず、その場に伏せようとしたその時だった。  俺の背中に固い感触があり、鉤爪が皮膚に食い込み痛みが走る。鳥に捕まってしまったと思ったときには、グンッとGがかかり、地面が急速に遠退いていく。 「はっ!、はっ、は、っ。」  俺は手を伸ばすけれど、どこにも捕まる場所はなくて。 「グヲォォォーーーッ!!」 「ウォォォォーーーッン!」  銀様の吼え立てる声がどんどん遠くなる。  嫌だっ、銀様と離れたくない!。そう思うのに、離されしまうのが悲しくて、涙がこぼれる。  * * *  鳥は物凄いスピードで空を飛んでいるのだろう。俺の身体は鳥の右足に挟まれての、空中遊泳だ。  空気抵抗が物凄くて、酸素を身体に吸い込むのがやっとだし、身体が冷えて辛い。  おまけに捕まる前から体調が悪かったから、身体はぞわぞわとするし、手先と指先がピリピリするし、頭と目の奥が痛いしで、最悪だ。  せっかく、自分がいるところの景色を見るチャンスでもあるのに、風圧で目を開けていられない。  俺、またエサになっちゃうんだろうな。  銀様が捕まらなくて良かった。  まぁ、俺なんてあんまり腹の足しにならないかもしれないけどね。  徐々に飛ぶ速度が緩やかになり、高度が下がってきたように感じる。  とうとうエサ場に着いたのだろうか。  地面近くでドサリと落とされたのは、巣穴の中ではなくて、塀に囲まれた広場のような所だった。  落とされた反動で転がっている時に、俺はバックパックを降ろして、中のザイルロープに手をかけた。  鳥にはバレないようにバックパックをおなかに抱え、尻餅をついた。  鳥が俺の目の前に立ち塞がる。  でかい。3mまではいっていないかもしれないけれど、頭がはるか上についている。  目は鋭くつり上がっていて、黒いくちばしはかぎ状にに曲がっている。俺からは胸の部分しか見えないけれど、焦げ茶と明るい茶色の羽毛がびっしりと生えていて、足は太くて爪は鋭い。  猛禽類、おそらく鷹だろう。 「ピルッ、ピピッ、ピピッ。」  鋭い鳴き声で鷹は俺に話しかけているみたいだけど、俺は鷹の言葉が分からないんだよ。  俺は、首を左右に振る。  相変わらず頭の中では逃げろと警鐘が鳴り響き、身体があんなに冷えていたのに、おなかの奥は沸々と熱を帯びる。 「はっ、はっ、はっ。」  俺の呼吸の音が響く。  鷹は獲物の弱り加減でも見定めるように、翼を広げてバランスを取りながら、頭を低くして、俺の顔を覗き込もうとした。  今だ!。  俺は、バックパックからロープを取り出しながら鷹の足元に滑り込み、ロープを鷹の片足に取り付けた。 「ギィッ。ギギギッ。」  鷹は翼を広げ、足を上げて俺を踏もうとするけれど、陸地の鳥は動作が鈍い。  俺は、避けながらもう一方の足にもロープを絡めて鷹の後ろ側に回ると、思いっきり走ってその勢いでロープを引いた。  鷹の近くにいると、身体が思うように動かないけれど、無抵抗で喰われてやるつもりは俺にだってないさ。精一杯足掻いてやる!。  大きな鳥なので、翼を広げて抵抗されると、俺の方が力負けして引き戻されそうだったけれど、俺がこんなことするとは思っていなかったはず。  油断していた鷹は、大きくバランスを崩して、翼をばたつかせて倒れた。 「やっ!…、ごほっごほっ!。」  勝利の雄叫びで、むせている場合ではない。  俺はすかさず鷹の首にもロープを回して、すぐに追跡できないように、くるくると絡めた。  自分の作戦がうまく行ったことが嬉しくて、俺はここの世界の獣が魔法を使えることを忘れていた。  鷹が転がっているうちに、脱出しようと、塀に走り寄って行ったところで、暴風に襲われ足止めされてしまった。  そして俺は、銀様がひょいと避けていたあの石つぶてを全身に浴び、痛いと思う間もなく、そのままブラックアウトしてしまった。

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