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第22話 温かい食事は大事

 俺は窓のない部屋の、ベッドの中で布団にくるまっている。  あの後、あの不味い回復ポーションを飲まされ、この部屋に通された。燕尾服のおじいさんが薦めてくれて、汚れた衣服を着替えたあと、眠っていたようだ。目が覚めた今は、体調も良くなってきて、熱も37度5分に下がっていた。  この部屋の雰囲気は昔のヨーロッパみたいな洋風で、着替えた衣服も、銀様が持ってきてくれたものに良く似ていた。  ベッドはクッションがきいていて、ふかふかだ。  それにしても俺の身体はどうなっちゃったんだろう。  ここ最近、ずっと体調が悪い。  昔、宇宙人が侵略してきて人間は全滅しそうになるけれど、急に宇宙人が死んじゃって助かったって映画があったなぁ。確か地球の生物には無害でも宇宙人には有害なウイルスだかが原因だったよなぁ。  ここは俺にとって異世界だし。俺もそのうち…。  やめやめ!くだらないこと考えたら負けだ!  そんなことよりも、金髪ロン毛男の話を整理しよう。  あいつは俺のことを、「災厄の神子」と、呼んで、ひどく嫌っていた。俺と番になれば、力がもらえるとか、混乱が収まるとか言ってたな。  でも番になるには、80歳を越えていなければならない。  やばそうだったから、とっさに17歳なんて、めっちゃ恥ずかしい嘘をついてしまった。  そもそも、何であいつと番うんだよ。普通女の子と番うものだろう。  てか、番うって、そもそも、結婚するってこととは違うのか?  考えすぎて、俺は布団の上でごろごろとのたうち回るのが、やめられない。  あいつは「西の」って奴も、俺を番にしようとしているって言っていた。銀様はさかんに俺を西に行かせたがっていた。  もしかして、銀様は「西の」って奴のペットなんだろうか?。銀様がペット…。  全然イメージもてなーい。  俺はまたごろごろとのたうち回る。  きっと、「西の」って人は、銀様がこの人を主に、と、認めた立派な人物に違いない。  俺が巨大な鷹に捕まったとき、銀様は雷みたいな攻撃をしていた。あれって魔法だよな。さすが異世界。ちょっとワクワクするなぁ。  魔法も使える銀様のことだ。きっと知性も高いんだろう。  俺を観察するように見ていたのは、「俺が災厄の神子」かどうか、判断しようとしていたのではないだろうか。  はっ、そんな知性の高い銀様に、俺、下半身剥き出して、大泣きしちゃったよ。  うっわ、恥ずかしすぎる。  ドサッと、ごろごろしすぎてベッドから落ちてしまった…。  俺はモゾモゾとベッドに乗り上げ、布団のなかに潜る。落ち着け、俺。これは俺の妄想だから。  ここはやっぱり異世界で。魔法もあって。日本語を話す人もいた。  こんなに立派な建物なんだ。  きっと、町や文化もある程度発展しているに違いない。  俺、ここを出たら町に行ってみたいな。  いろんな人に出会って、話をしてさ。  もとの世界に戻れる方法を知っている人を探す旅をしよう。  うわ、なんかワクワクしてきたなぁ。  そのためにも、体力つけなきゃ。とりあえず良く寝て、早く回復しなきゃな。  あぁ、同じようなことを、桜の巨木に居たときも考えたよな。あの時は銀様がいて…。  銀様に逢いたいなぁ。  * * *  ココンと、ノックの音で俺は再び目を覚ました。  腕時計の針は13時になろうとしている。体温は平熱に戻っていた。  俺がモゾモゾと上半身を起こしたタイミングで、カチャッとドアが開いた。  顔を出したのは、金髪ロン毛男の隣に居た燕尾服のおじいさんだ。 「失礼致します。そろそろ起きられる頃かと思いまして。」  丁寧な言葉使いで話しながら、俺のそばにワゴン車を押しながら近づいてきた。  良い匂いが俺の鼻腔をくすぐると、俺のおなかがぐぅーと鳴った。 「ほほほ、ちょうどおなかが空く頃かと思いましてね。  お加減のほどはいかがですか?」  俺はおなかが鳴ってしまった恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じながら、こくこく頷く。  回復ポーションと、睡眠のお陰で俺の身体は全快だ。  俺はおじいさんに笑顔を向けて、元気アピールをする。 「ふむふむ、お元気そうですね。食欲もおありですか?そのままお食べていただいても構いませんよ。」  見ると、トレイの上に小さめのパンが二つと、スープの入ったカップと飲み物の入ったコップが置かれていた。  またおなかがぐぅーと鳴る。 「ほほほ、少々お待ちくださいね。」  おじいさんは、俺の座っているところに、サイドテーブルのようなものを設置すると、その上にトレイを置いてくれた。 「あ、…、と。ごほ。」  俺は無意識にお礼の言葉を言うと、それはほとんど空気の出る音で、おまけにむせてしまったが、どうやらおじいさんには通じたようだった。 「いえいえ、お礼を言われるまでもないことですよ。」  おじいさんの優しい微笑みに、俺も笑顔を返して、ご飯をいただくことにした。  両手を合わせ、「い、…、す。ごほっ。」  少しむせながら、スープを手に取り、口に運ぶ。  野菜のだしが良く出ていて、美味しい。何より温かい。  パンも一口の大きさにちぎって、食べてみる。  ちぎった感触から、やや固めだなと思ったけれど、これもスープに良く合っていて美味しい。  考えたら、俺ってば昨日ぶとうを一粒食べただけで、後はイオン飲料水飲んだだけだもんな。

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