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第23話 お風呂に入るには

「た、や、ごほっ、こほっ。」  俺は今、思わぬピンチに立たされて、もはや涙目だ。 「ほほほ、心配ございません。私どもに全てお任せくださいませ。」  にこやかな笑顔を向けて俺に近づいて来るメイド姿のお姉さん達が怖すぎる。  俺は、ふるふると首を左右に振るしかない。 「ほほほ、なんと可愛ら…。コホン、失礼いたしました。ご心配には及びません。これは私達の業務にございます。」  俺は、ふるふると首を横に振りながら後ずさって逃げていたけれど、とうとう壁に阻まれ、門前の狼もといお姉さん3人に囲まれてしまった。  ここの人間は皆、背が高い。おじいさんも背が高かったし、お姉さん達も明らかに俺より背が高い。  なんだよ、ここは、動物だけじゃなくて人間もでかいのかよ!  はっ!。  そんなことを思っている間に、あれよあれよと服を脱がされ、パンツも脱がされ、俺はあっという間にはだかに剥かれると、湯殿に連れて行かれた(お姉さん達に)。  * * *  この世界に来てからの俺は、俺って奴は、まだ3日しかたってないのに、消したい記憶がいくつできたんだろうか。  数えないぞー。  抵抗も虚しく頭の先から足の先まで、お姉さんたちに丁寧に洗われてしまった俺。  お風呂から上がっても、そのままお姉さん達にマッサージまでフルコースでされてしまった俺。  俺は今、窓のないこの部屋に戻り、記憶の抹消をしている。  ううう、恥ずかしすぎる。  ココンとノックがして、燕尾服のおじいさんが入ってきた。  俺と目が合うと、「おやおや。」と、少し驚いたような表情をする。  ?。何か粗そうでもしてしまったかな。  俺は小首を傾げるが、おじいさんはその事に何もふれない。 「ティータイムはいかがされますかな?。  本来ですと、ツヴァイル様と共に席をご用意致したいところですが、神子様はツヴァイル様のお近くにいらっしゃらない方が、お加減がよろしいように思います。  ツヴァイル様も自由にして良いとのことでした。」 「ぁ、…、、こほ。」  俺は口をパクパクしながら一人で食べたいアピールをする。  確かに、金髪ロン毛男がいない時の方が体調が良いように思えるし、そもそもあいつは俺のことを嫌っているから、俺と一緒にいたくないだろう。 「おやおや、やはり、ツヴァイル様は嫌われてしまいましたかな。まぁ、自業自得ですねぇ。」  ん?、なにって?。  おじいさん小声過ぎてなに言ってるか聞き取れないよ?。 「なんでもございませんよ。  では、承知いたしました。準備が整うまで、身体をお休めください。」  燕尾服のおじいさんは、俺に微笑んでそう言うと、部屋を出ていった。  俺はそれを見送りながら、ふと、思い出す。  俺、このままここにいると、ヤバイのではないだろうか?。  あいつは言ってなかったか?。「番にする。」と。  俺、もしかしなくても、ファーストキス消失に続く消失案件にたたされているのではないだろうか?。  番とは動物界での、結婚のことだよな?。  男同士で?………。  異世界だし?…。  ………。  逃げよう。  実は、俺は昔から知らない男の人にものを尋ねられることが多い。その都度、鬼のような形相で、蒼士や雄吾が俺の代わりに答え、俺に説教をしてきた。  これは、その案件と同じにおいがする。  大人になった今は、蒼士や雄吾が怒った理由がわかる。世の中には、いろいろな人がいるのだ。  こんなところでとろとろしていたら、それこそ蒼士に怒られる。あいつ、普段優しいのに、怒るとめっちゃ怖いんだ。  俺がそんなことを考えていると、ココンと、ノックの音がして、燕尾服のおじいさんが入ってきた。 「ピピ、ピピピ。クルルルル。」  おじいさんは、鳥の鳴き真似をする。  うお、めっちゃうまい。俺は驚き、おじいさんを凝視する。  おじいさんは構わず、優しい笑顔のまま鳴き真似を続ける。  俺は別にそう言うの嫌じゃないけどね。  でも、何言っているのか全然分かんないんだけどな。  俺は小首を傾げ、分からないアピールをすると、おじいさんも訝しげな表情をした。 「クルルル?、ピルルル?、クルルル?、クルル?。」  お、なんか質問したみたいだぞ?。  でも、分からないものは分からない。  俺は手のひらを上に向けながら、分からないアピールをする。  それを見たおじいさんは、俺に一礼して、足早に去って行ってしまった。  いよいよやばいことが起こりそうな予感がする。  ここに居たらダメだと、俺の頭が警鐘を鳴らす。  俺は捕まって来たときの服とシューズを見つけ、着替えるとバックパックを背負って、ドアに近寄る。  そーっとドアノブを回すと、鍵はついていなかった。  周囲に人気もない。よし!。脱出だ。  俺は廊下に出ると近くの窓から、外を見てみた。  わーぉ、絶景かな、絶景かな。  城は崖の上にあり、その下は、木、木、木。  森が続いているようだった。  町を見てみたいなぁって思っていたけれど、城の外は森でした!。  また森か!。まぁ良い、森の中のが隠れやすいし!。  俺は足場になりそうなところを探す。  バックパックの中に、ザイルロープがある。巨大鷹を縛ったロープを、おじいさんがお見事でしたと笑いながら返してくれたんだ。  ショートグローブもナイフもそのまま入っていて、ありがたいけど、ここの人達の危機管理が少し心配になる。  結びやすそうな場所を見つけると、ロープの先端を固定し、身体にロープを巻き付けながら、城の壁を足掛かりに、下へと移動する。  そのまま森の中を走る。  たぶん、時間との勝負だ。  モタモタしていたら、きっとあのでかい鷹が俺を探しに来る。あの鷹に見つかると、俺はまた体調不良がぶり返して身体が動かなくなってしまうかもしれない。  俺は走ると言うよりも、斜面を滑り落ちるように下へ下へとくだった。  ジーンズの中やシューズの隙間に枯れ草や土が入るけれど、構っていられない。インナーもなく、半袖のTシャツなので、腕に引っ掻き傷がついても構わずくだる。  いそげいそげ。  連れ戻されるな。俺。  ザカザカと急斜面をくだっていると、岩肌が目立つところに来た。少しルートを変えようと、俺は、少し迷ったけれど、右側に進路を切り替えた。  しばらく右に走っていると、岩でできた小さな洞窟があるのに気がついた。普段の俺だったら、見知らぬ洞窟なんて、絶対に一人で入らない。  でも、なんだか、この奥に呼ばれている気がする。  天井のあるところなら、あの鷹も追っては来れまい。仮に行き止まりだとしても、ここで鷹をやり過ごす方が良いかも知れない。  俺は、吸い寄せられるように、洞窟の中へと入っていった。  ヘッドライトで周囲を照らす。  洞窟の中は静かだ。  俺は中へ中へと進む。  方位磁針で場所の確認をしたら、磁力があるのか、あてにならなかった。  仕方なく、分かれ道は石を積んだり、ごめんと誤り、目印程度の傷を付ける。うぅ、環境破壊だ。  ほどなくして、洞窟内の広場に出た。

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