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第28話 災厄の神子1
「さて、神子様?。喉の調子はいかがですか?」
オルさんが俺に聞いてくる。
「あー、あ!。あ、あ。あいうえお。おー!!、声出るよ。銀様!。」
「くくく、銀様とは…。
くくく、いやはや、失礼、くくく。
あぁ、声も可愛らしいですな。ぜひ昨日のあの場面で聞きた…。」
「わぁ、わぁ、わぁ!、聞こえない聞こえない。
もう!。忘れてくださいっ!!。」
何言おうとしているんだ!。オルさん!。
「グルルルル、ヴォォン!!。」
銀様も吠える。
「もう!。オルさん一言多過ぎ!!。」
「おやおや、もう愛称で呼んでくださるとは。感激の極みです。」
銀様は唸るし、オルさんはいちいち芝居がかった言い回しをして、一人楽しそうだ。
もう絶対反応してあげない!。
「声を治してくれたのは、オルさんなんですか?。」
「そうですよ。しかしこの力は、私のであり、私のではないのです。あなた様の力なのですよ。災厄の神子様。」
オルさんの茶色の瞳が俺を静かに見つめる。
「俺に力なんて無いですよ。魔法も使えないし。俺はごく普通の一般人です。」
「あなた様は桜の宮に召喚されましたね。それが何よりもの神子様の証ですよ。」
オルさんは静かに話す。
「神子様の力は、神子自身が使うのではなく、使役される我々が使うのですよ。
我々、アースの民と神子様が交わると、様々な力が付与されます。」
「交わるって?」
「体液の交換ですな。」
「ひぇ!!。」
俺の動揺をよそに、オルさんは語る。
「昨晩の魅惑的な交わりにより、あなたは私に、癒しの力を与えてくださったのですよ。」
「えっ、えぇぇっ。」
「グルルルルッ。」
再び銀様も唸る。
「ふふふ、唾液、血液、涙、汗、もちろん精液。」
その言い回し、わざとだよね?。
「本来、このアースで産まれた神子様や召喚されて顕現した神子様は、この世に唯一無二の番様だけに、力をお与えになります。他の者が体液を交わしても、力は与えられないのです。
ところが召喚された異界の神子様の中には、希に番様を一人と定めず、何人もの番候補者に力を付与することができる神子様が現れます。その神子様のことを災厄の神子と呼んでいます。
そうして、私のように力を与えられた者は、神子様のために力を駆使することができるようになるのですよ。」
「そんな…」
「番候補者も、誰でもなれるものではありません。より能力が高い者に多く、比較的王族など、一族を束ねる者に多く現れます。そのため、より力を求めようとすると、自ずと神子の力を欲するのですよ。」
「でもそれって。神子の力を利用したいだけですよね?」
「皆が力を欲しているわけではありません。我々番候補者と言われる者はもともと能力も高く、普通に暮らす分には不自由しませんからね。
しかしながら、権力者には、民を守る力が必要なのです。神子様の現れた国は栄えます。逆に言えば、神子様のいない国は、力の強い国の前では無力なのですから。」
「災厄の神子の存在が、国同士の争いを生んでしまうということですか?。」
「まぁ、簡単に言えばその可能性がある。という程度ですかな。力云々を別としても、神子様と番候補者は惹かれ合うものなのです。
フリー神子を取り合い、周囲を巻き込み災害級な争いが起こる可能性がある故に災厄の神子。と、言ったところでしょうか。こればかりは各番候補達の動向によるところが大きいでしょうな。」
「そんな…。」
「可愛いあなた。早く番候補者と契約を結びなさい。さすれば、いくらその魅惑的な体液を第三者が搾取しようが、もう力は与えられないのです。皆、諦めるでしょう。」
「契約?」
「愛を確かめながら番候補者にうなじを噛んでもらうのですよ。そうすることで番契約が成立し、力を付与するだけでなく、神子様も番様から何らかの力を授かるのですよ。」
オルさんは、自分のうなじをとんとんと叩いた。
「ひぇっ。」
あ、あ、あ、あ、愛をって。
あれだよな?
「セック…。」
「わぁ!。わぁ!。言わなくても良いですからっ。」
俺はオルさんの言葉を止める。オルさん、絶対、わざとだろう!?。
「奥ゆかしいあなた、発情期は?。見たところ、まだまだ、少年のようですが?。」
「発情期?。少年??。」
「あぁ、確か17歳でしたな。
番候補の気にあてられて発情はするようですが、まだまだ性的に未熟なようですね。」
「あ、俺…。」
17歳って、金髪ロン毛男についた嘘、なんで知ってるんだ?
「あぁ、私はツヴァイルの叔父なのです。あなた、昨日はツヴァイルと番うのが嫌で逃げ出したんでしたね?。」
俺はあの時の暴力を思い出して震える。
背中に銀様の体温を感じて、温かい。
「お陰で私は幸せな時間をもらえましたが。」
「う゛。」
「ガゥルルッ。」
銀様が唸る。俺のこと心配してくれるのかな?。
構わずオルさんが話す。
「まぁ、契約はあなたが成人して、愛情をもって行為をしなければ成立しませんし、真なる力は付与されません。あなたを無理矢理奪っても、その力は一時的なもの。いずれ消えますし、真なる番様には敵いませんよ。」
「あ!。思い出した。
この世界の成人って80歳なんですか?。」
「目安はそうですね。
我々の寿命はざっと400年。乳児期と老年期が短く、青年期がとても長いです。その分、性にもオープンですからね。男女問わず、性を楽しむ傾向にあります。」
「400年!。」
「ですが、発情は種族や個人の差が大きいですね。
年中盛っている者、年に一度しか盛らないもの。
力の付与は、精通していればできますが、契約や真なる力の授受は愛情が必要ですからね。お互いが愛を理解して慈しむには、80歳と言う年輪が必要なのですよ。ですから、契約の適齢は実年齢と言うより精神年齢が重視されますね。」
俺の顔が赤くなる。
「おやおや、このくらいで。初な可愛いお方ですね。
性的に惹かれるのも、同じ種族が多いのですが、召喚された神子様に限っては、種族を越えますし、愛し合えばお子も産まれます。
種族の血統や唯一無二の純愛を重んずる者達からは厭われることもありますね。このことも、災厄と呼ばれる由縁でしょうな。」
「そんな…。
だから、金髪ロン毛男は俺のこと糞神子って怒ってたのか。」
「金髪ロン毛男…。くくく。いやはや失礼。くくくく。」
オルさんは面白そうに笑う。
オルさんは茶髪パーマの変態おじさんだったけどね!と、心のなかで俺が突っ込むと、銀様が俺の頬をペロリと舐めた。
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