32 / 58
第31話 ○と△でできている?
「見つけた!。逃亡者発見!!。」
甲高い声に、俺は絶望感から身体が震え、動けなくなってしまった。
「グォン!!、ウォン、ウォン!!」
銀様が俺に向かって吠える。
頭を進路に向け、尻尾が俺を呼んでいるようだ。
まるで構わず走れって励ましてくれているみたいだ。
俺の身体、動け!
俺は再び山を登る。
「ちょっ!。動くな。止まれ!!。」
甲高い声が叫ぶけれど、姿がない。
姿が見えないのを良いことに、移動を続ける。だって、銀様に置いていかれちゃうから。
パサパサッと鳥の羽ばたきが聞こえ、近くにいる気配を感じる。
洞窟のところで聞いた羽音は大きな鳥を想像できたけれど、この鳥は多分小さめだろう。
「ウォン!!」
「ピャ!」
銀様の声と共に光が走った。
眩しくて目を閉じると、誰かの悲鳴と共に頭の上にボスンとなにかが落ちてきた。
「いったーっ。」
俺のキャップの上に落ちてきたのはドッジボールくらいの大きさと形の鳥だった。
「うっわ、可愛い~。」
その鳥は、まんまるで、お腹は真っ白、背中側が茶色かったり黒かったりしていて、黒い尻羽は身体と同じくらいの長さがある。
「こ、これは、あれだ!見たことある。シマエナガだよね。でかいけども!。」
「…。」
俺が興奮気味に銀様に同意を求めると、銀様は覚めた目でこちらを見つめていた。
いやいや、銀様。こわもてのお顔が更にこわもてですよ…。
「ピ!。」
シマエナガの目が開いた。
「うぐっ。可愛すぎる。」
なんだこの生き物は。目がつぶら過ぎる。
まん丸だ。くちばしは三角で。
顔が丸と三角でできているっ。
俺が感動していると、シマエナガ改めシマっちが暴れる。
でも、俺はがっしりと両手でホールドしているから、逃れられない。ふふふふふ。
「ピ!、離せっ。離せっ。この無礼者が!!。」
可愛いシマっちから、甲高い声が飛び出してきた。
「うっわ、声出てるよ。どこかにスピーカーついてるのか?。」
俺はシマっちの白い体を眺める。
「こ!。こら!。乱暴に揺するな。」
おー。くちばしから聞こえる。これも魔力で操っているのかな?さすが鳥使いの一族。
「この子どうしようかな。ここに縛り付けておいたら、誰か救助に駆けつけてくれるかな?。」
「な、縛るとか、なんたるハレンチな!!。」
「ハ、ハレンチって。ふふふっ。」
俺はついつい笑ってしまう。
「この痴れ者が!。離せ。災厄の神子ごときが我を触って良いとでも思っておるのか。」
「う、可愛くないこと言い始めた。やっぱりくくってしまおう。」
「わー、まてまて。悪かった。謝る。ごめんなさい。」
「クスクス。素直だなぁ。でも、ごめんね?。俺は追跡されるわけにはいかないから、やっぱりここに吊るしておくね。」
「なっ、騙したな。まてまて、くくるな。我は一人で来たゆえに、こんなところに吊るされたら、発見されずに死んでしまう。」
「えー、中の人に助けてもらえるだろう?。」
俺はシマっちを銀様に預けると、バックパックの中から、ナイフを取り出した。
「ピッ!。」
シマっちが叫ぶ。
「まてまてまて、中の人とはなんじゃ。そんなものはおらぬ。我は1人ぞ。」
「ふーん。」
俺は生返事をしながら、ナイフのカバーを取る。ステンレスの刃が光る。
「ピッ!た、助けてくれ!。
我はクラシマール・ディ・ヴァイデル・ロア・オンデリア。
ここオンデリアの第四王子なるぞ。」
「ふーん。ここの王子はみんな、態度がオレ様なんだな。」
俺は言いながら、蔓を切り落とし、シマっちを縛るロープ代わりを調達する。
蔓と蔓を縛って長い縄にする。
「じゃ、縛るから。なるべく早く駆けつけてもらってね。」
可愛そうだけど、術者にここが知られているだろうから、長居は危険だ。
「わー、人でなしっ。触るでないっ。」
「うん、ごめんね?」
俺はシマっちの両足を揃えて蔓でくくる。なるべく痛くしたくはないけれど、拘束をほどいて追跡されないようにきつく縛る。
「う、うえーん。
やだよ痛いよ。怖いよ。助けてよー。」
急にシマっちがぶるりと震えたと思った瞬間、そこには5歳くらいの、金茶色のくるくるの癖っ毛の、男の子がはだかで泣いていた。
「え?。えぇ?。」
俺は驚きのあまり、言葉が出ない。
まさかの、鳥使いの魔術師 って幼児なのか?
「うえーん。足、痛いよー。」
あっ、足下を見ると、蔓はちぎれていたけれど、この子の両足に赤く縛り痕ができていて、見るからに痛々しい。
俺の職業病が発動するのは仕方ないと思う。
「ごめんな、痛かったな。
痛いの痛いの遠いお山に飛んでいけー。
痛いの痛いの遠いお山に飛んでいけー。」
俺はその子の足をさすりながら、おまじないの言葉を言う。
「おおっ、痛いのが飛んでいったぞ」
男の子が目をキラキラさせて笑顔で俺を見る。
「それは良かったね。」
俺は男の子の目線になるように姿勢を低くして、にっこりと笑顔を返す。
男の子の顔が赤らむ。
あ、裸だからね。さすがに恥ずかしいのかな?オレの着替えが、オルさんの袋セットの中にあったはず。
俺は、男の子に見られないように、俺の着替えのTシャツを取り出すと、それを着せてあげたのだった。
ともだちにシェアしよう!