33 / 58

第32話 ここは獣人の世界

(われ)の名前はシマっちではなく、クラシマール・ディ・ヴァイデル・ロア・オンデリアと言うんだぞ。ヴァイデル王国の第四王子だぞ。尊き存在なのだぞ。」 「そう、かっこいい名前だね。シマっち何て呼んだら尊き王族に失礼だったよね。  だけど俺には難しくて正式の名前が覚えられそうもないなぁ。せめてクラシマール殿下って呼んでも良いですか?。」  俺が首をかしげなから、聞くと、クラシマール殿下はちょっとためらって、 「…良いぞ。」  と、言ってくれた。良い子だなあ。  あれから、こんな小さい子を森の中に置き去りにできなくて、でも、止まっていたら追手に追い付かれてしまうしで、結局連れて行くことにした。  俺がおんぶして行こうとすると、なぜか銀様が唸るので、クラシマール殿下には自分で飛んで付いてきてもらうことにした。  危機管理!、と自分でも思ったけれど、泣いてる子どもを置いていけないよね。  で、山を登ったりくだったりしながら聞いた、このアースの世界で、驚くべき事実を知ったのだった。  それは、この世界には獣人がいること。  しかも、獣人がほとんどで、俺のような人族は、ほぼいないらしい。  獣人は、普段は人の姿で生活していて、有事の際には獣の姿になり、その特性を活かして行動するみたい。  より獣の姿に変身?できる方が、特性を活かした能力も高くて、故に権力者に多い。逆に獣に変身できない人は特性が活かしにくく能力が低く、身体も弱くて、下層民?に多いらしい。  なのに、獣人はより人に近い方が尊敬され、耳や尻尾がしまえない人は、蔑まれる。  じゃぁ、獣に変身できない人がいるのかと思えば、人族以外は変身できるんだって。  特性を活かす能力なんて、獣になればみんな備わっていそうなのにな。  なんだか理不尽に感じられて、質問するけれど、クラシマール殿下には、それが「常識」なんだって。そうなのかなぁ??  俺が更にビックリしたのは、あの巨大な鷹は金髪ロン毛男(ツヴァイル)自身だったってことだ。  俺、ロープで足縛って倒しちゃったよな。道理でめっちゃ怒ってた訳だわ…。  じゃ、オルさんも… 「ねぇ、クラシマール殿下。オルさんも何かの獣人だよね?。」 「オルさん?。」 「あ、えっと、オルセラン…様?。」  敬称に何をつけて良いのかわからない、ダメな俺。 「…、…、我のことも、シマ君と、呼んで良いぞ。」 「え、ありがとう。じゃ、シマ君って呼ばせてもらうね。」 「ウム。」  羽を懸命に動かして、可愛いなぁ。俺はお礼の気持ちを込めて、微笑みを向けた。 「で、オルさんは、何の獣人なのかな?」 「叔父上は、フクロウだぞ。」 「!。  なるほどね~。」  俺は勝手にコウモリをイメージしていた。なぜならばあれだよ、あの革袋のマーク。てっきりコウモリと思っていたけれど、実は、フクロウだったのか…。 「じゃ、じゃあさぁ。」  別に内緒話をしようと思ったわけではないけれど、声を潜めてしまう。  銀様も、獣人なのだろうか?  俺たちの言葉を理解しているみたいだし、とても頭が良い。  銀様が獣人だったら、人間の姿を見てみたい。 「うん?。なんじゃ?。」 「えっと、ぎ、銀様って…。」 「?。良く聞こえんよ。」 「…、…、いや!。なんでもないよ。」  やめた。銀様のことを、人から聞くのって、ちょっと違うよね。自分で銀様のことを知っていきたい。俺はそう思い直して、再び前進することに専念することにした。

ともだちにシェアしよう!