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第33話 もうじき神域

「ピピピピ、チチチチ、チィチチチ。」 「あれ、シマ君、鳥の鳴き声になっちゃった?。」  15時を回ったところで、大木の影で休憩を取っていると、シマ君の声が全て鳴き声に変わってしまった。 「そう言えば、ツヴァイルの城でも、突然おじいさんの声が鳴き声になっちゃったんだよな。」  あの時は、鳴き真似がうまいと感心してたけど…。 「ねぇ、シマ君、もしかして、俺のことばって理解できてない?。」 「ピピピピ。」  うーむ、判断つかないなぁ。 「銀様、俺のことば分かる?。分かったら、お手して。お手。」  俺は、そう言いながら右の手のひらを銀様に差し出した。  銀様は、冷めた視線を送ってきたが、俺のそばに来ると、ぬーっと首を伸ばし、俺の頭に自分の頭を乗せてくる。 「ぎゃ、重たぁい。ごめんなさ-い。」  俺が銀様の重みに耐えきれず、ベシャッとその場につぶれると、銀様が俺の上に馬乗りになり、顔を舐めてきた。  頬を舐められ鼻を舐められ、唇を舐める。 「わっぷ。」  口の中も舐めてきて、俺は銀様の頭をどけようと、銀様の顔を持つけれど、俺の力で敵うわけもない。  散々口の中を舐められ、銀様の唾液と俺の唾液で俺の顔はびしょ濡れだ。 「もー、銀様、そう言うコミュニケーションは彼女としなさいって、前にも言ったでしょ。」  その時は声出てなかったけどね! 「お、お前たち、子どもの前で、はしたないとは思わんのか!。」  見ると、真っ赤な顔のシマ君が男の子の姿でプンプン怒っていた。  推察するに、どうやらオルさんの言うところの体液の交換で、俺はことばを理解できるようだった。  俺のことばも、この世界のことばもお互い通じないみたいで、魔法の効果は多分半日くらい…。  これからも誰かとこういうことしないといけないのかと思うと、やっぱり向こうの世界に帰りたいなぁって、思っちゃうよね…。  俺の純情を返してくれ…。 「と、とりあえず、今日の今からの予定なんだけど。」 「うむ。」 「俺達は行くところがあるからさ、今日は安全なところを見つけて野営をするんだけど、シマ君はおうちの人が心配するといけないから、やっぱり帰ろうね。  できれば、俺達のこと黙っておいて欲しいんだけど。」 「嫌じゃ、付いていく。」 「でも…。」 「我はもう4つだぞ。一人前じゃ。」 「そっかぁ4歳かぁ、大きいんだねぇ。  じゃあ、一人でも帰れるね。暗くなる前に、ママのところに帰れるか心配しちゃったけれど…。一人前なら帰れそうかな?。」 「ぐっ。  わ、我は一人前で、帰れる。が、帰らん!。」  シマ君が人間の男の子になって、頬を膨らませて拗ねる。  くっ、可愛いなぁ。と、心のなかで思っても、表面には出さない。  俺は方位磁針を取り出して、シマ君に見せる。 「シマ君。ツヴァイルのいるお城は、北西の方角にあるから、木よりも高く、まっすぐ飛んでいけば、誰かがすぐにシマ君を見つけてくれると思うんだ。だから、迷子になんか絶対ならないよ。」 「ほ、本当か?。」 「うん、本当だとも。みんながシマ君の心配をしているよ。暗くなる前に早くお帰り。」 「み、神子は、また、我に会ってくれるか?。」  シマ君が心配そうに聞いてくる。  俺はシマ君の目を見て頷く。 「うん、また会おう。一緒に探検しようね。」 「約束じゃぞ。」 「うん、約束な。」  俺は、シマ君の小指と俺の小指を絡めて、約束をする。シマ君は、それが嬉しかったのか、頬を染めて笑顔になる。俺もつられて、笑顔になる。  あぁ、これが保育士の生き甲斐だよなぁと、しみじみと実感する。  そんな感動している俺達のところに、銀様が近付いてきて、俺とシマ君の小指を食べようとするので、俺達は慌てて手を離した。 「け、け、獣の分際でっ。我を食べようとするとは、無礼者めっ。」  そんなことを良いながら、シマ君は器用にシマエナガ鳥に変身すると、空高く飛んで行ってしまった。  小さい子を脅すなんて、ダメでしょ。と、少し非難の目を銀様に向けてしまったけれど、銀様は我関せず。しれっとそっぽを向いてしまった。 「銀様、お願いがあるんだけど…。」  * * *  真っ暗の森の中。木々が生い茂っていて、星明かりも届かないから、俺にはなにも見えない。  俺は、銀様にお願いをしてロープで銀様の肩の辺りに手を繋げるリードのような物を取り付けさせて貰った。  銀様に身体を密着しながらなら、真っ暗な夜道も移動ができると考えたんだ。  多分、シマ君は、鳥族の人に無事合流できるだろう。  そして、シマ君は黙っていても、俺達の位置は知られてしまうだろう。  鳥って、実は夜行性が多いと雄吾から聞いたことがある。夜だからと、のんびり野営をしていたら、すぐに捕まってしまう。ヘッドライトで照らした移動なんて問題外だ。  俺は、シマ君を帰すと決心したときから、この事を覚悟していたんだ。  覚悟していたんだけど、想像以上に、怖いんだよ。  銀様は賢い。俺に物が当たらないようなルートを走ってくれる。俺も、以前とは比べ物にならないくらい銀様のことを信頼している。  けれど、やっぱり、怖いものは怖い。  見えないって、こんなに緊張するものなんだな。 「はっ、はっ、はっ、はっ。」  俺の左手を銀様にくくりつけた状態で、半ば引きずられながら、それでも前へ前へと進む。  銀様だって、慣れないロープをつけられ、俺を支えながら走るのだから走りにくいだろう。  急げ、急げ、見つかる前に、なんとか神域にたどり着きたい。  

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