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第34話 夜の森を抜けて

 俺達は、暗闇の中で突然何かに襲われた。  地面を這いずる音がして、何かがいる気配が分かった。銀様はぶるりと身体を揺すって俺を木の根もとに誘導した。ここに居ろってことか?。  俺は邪魔にならないよう、できるだけ身体を小さくして身を伏せた。 「キシャ-ッ。カッカッカッ。」  ババババッ、パキパキパキッ。  何かの叫び声やぶつかる音がして、地面や空気が震える。  銀様に取り付けてしまったロープが邪魔になっていないだろうか?。  俺をかばって銀様が怪我をしていないだろうか。  俺にできるのは、銀様の無事を祈ることだけだった。  しばらくすると、辺りに静寂が戻った。 「ウォン。」  俺の好きな匂いと共に、目の前に銀様がいるのが分かった。俺は我慢ができなくて、銀様の身体に震える手でライトを当てた。  銀色に輝く毛並み。呼吸は浅く、速い。  血は?、怪我はないだろうか?。 「銀様、怪我はない?。  ごめんな。一人で戦わせちゃって。本当にごめん。  そしてありがとう。守ってくれてありがとう。」  俺は銀様に抱きついて、全身をマッサージする。銀様はまだ息が荒くて、体温も高いけれど、怪我はしていないみたいだった。  銀様は少しの間そこに座り俺の好きにさせてくれた。俺も、銀様をもふもふしている間に気持ちが落ち着いてきた。  それを見計らったように銀様は立ち上がり、俺の手を引っ張った。 「先に進めってことかな?。」 「ウォン。」 「そうだね、この場所もその内に知られてしまうね。  よし、行こう。」  俺は再び銀様に付けたロープに手を絡め、銀様と一緒に夜の森の移動を開始した。  夜営をしなければ、夜明け前には鳥族の領域を出て、沢を渡ればそこは神域。  強い魔物は入れず、獣人も王族と番候補者しか入れないから、昔から王族の試練の儀式に使われることが多いって、オルさんが言ってたのを思い出しながら、俺は懸命に足を動かしていた。  * * *  俺の好きな匂いに包まれて、俺は今日も幸せだ。  ほくほくとした気持ちでいると、頬に濡れた感触が落ちた。銀様?。  頬を舐め、鼻を舐め、唇を舐める。俺はたまらず口を開けると、口の中も舐められる。  その刺激で唾液が溜まるけれど、お構いなしに舐められる。唾液がこぼれるのが嫌で、俺はその唾液を飲み込む。俺の喉仏が何度か上下する…。 「って!、も-ッ。  口の中は彼女にしてやりなさ-い。」  俺は、銀様の顔を両手で押し退けながら、銀様に抗議しようと目を開けた。 「あ、あれ?。ここどこ?。俺、寝てた?。」 「グルル。」  良く見れば、俺は、銀様のそばで寝ていたようだった。  あれれ?、一晩中走っているつもりだったのに… 「き、記憶がない…。いつの間に…。」 「ウォン、ウォン。」 「そっか、起こしてくれたんだね。ありがとう銀様。」  時計を見れば4時30分。  あの日からアラームは4時にセットされたままなのに、アラームでも起きなかったんだな、俺。 「空が少し明るくなってきているね。先を急ごうか。」  なんとか周囲が見える。なぜか近くに落ちていた、銀様に取り付けていたロープを回収して、銀様に怪我がないかもう一度確かめた。そして水分補給をして、準備を整えた。  少し眠ったからだろうか、からだが良く動く。  一緒に山道を下ると、やがて、沢にたどり着いた。  その沢の向こう側が、俺達が目指している神域で、そのてっぺんに桜の巨木があるはずだ。  沢に下りようとしたとき、ふわりとリンゴの香りがして、俺と銀様は立ち止まった。 「遅かったなぁ!。糞神子がぁ。」  そこに仁王立ちしていたのは、金髪ロン毛男のツヴァイルだった。  リンゴの香りがしているけれど、あの時のような、身体の火照りはなく、呼吸も乱れない。  オルさんもそうだったけど、不思議だ。  め、免疫でも付いちゃうのかな…。 「こぉ-ら、糞神子。俺様が番にしてやるって言ってるのに、なんで逃げた。あぁ!?。  クラシマールまでたぶらかしやがって。余分な手間をかけさせるんじゃねーよ。ほら、帰るぞ!。」 「グルルルルッ。」  銀様がうなり声をあげる。 「俺は!、あなたとは番いません。お引き取りください。」 「はぁ?。なに言ってんだ。つべこべ言わずに帰るぞ。」 「か、帰りませんよ。俺は、この先に用事があるんです。そこを通してください。」  ツヴァイルが、口を真一文字に引き結んでこちらを睨む。もともと鋭い目付きなので、ちょっと怖い。  いつの間にか、銀様の毛皮の中に自分を隠そうとしてしまうところが、俺の狡猾な嫌なところなんだろうな…。 「ぷぷぷ、若、嫌われましたねぇ。」 「あんな乱暴な言い回ししてちゃあ、そりゃあ、振られても仕方ないなぁ。」 「せっかく来てくれたのに、逃げられるとか、ククク。」 「いやいや、無理矢理連れて来てるから。拉致って来てたんすよ。」 「だから、ロープで転ばされるんだわ。」 「あの神子様、最強っすよね。」 「俺も見たかったなぁ、若が負けるとこ。」  周囲から、ざわざわと声が聞こえる。ツヴァイルから少し離れたところに、数名の部下?兵士?の皆さんが、リラックスした様子で立っている。  おお。皆さんお約束の兵士のような簡易な武装をしている。それに比べて、ツヴァイルは軽装だ。  そんなツヴァイルを見ると、顔が赤く、羞恥に堪えているよう、だ?。 「うるっせーーーっ!!、黙れっ!!、お前ら付いてくんなって言っただろうがっ。」  突然の大声に思わずビクッと肩を揺らしてしまった。  驚いている俺とは反対に周囲はなんだか和やかだ。 「わはは、そりゃ無理だろう。」 「こんな面白…ゴホン、若になにかあっちゃいけないからな。」 「護衛っすよー。」 「若を負かした神子様を直に見たいじゃないですかぁ。」 「そうそう、俺達が何のために一晩中探したかって。」 「若の惚れた神子様見てみたいじゃないっすかぁ。」 「どうせ振られて連れて帰れない方に5ピルかけてるからなぁ。」 「お、俺は、まだ振られてねー----っ。」  ツヴァイルは赤い顔のまま、護衛さん?の方に向かって怒鳴った。 「わはは、さっき番えないって断られたじゃないか。」 「帰らないとも言われましたねぇ。」 「連れて帰ってくるに賭けたやついたか?」 「しつこいとさらに嫌われるっすよー。」  な、なんか、鳥族ってもっとこう、偏見もっていて、固そうなイメージだったけれど、自由すぎて、赤い顔でブルブルしているツヴァイルがちょっと可哀想になってきた…。  

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