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第30話 桜の巨木を目指して
俺と銀様は今、オルさんの屋敷の裏の洞窟を抜けるために走っている。
ここは鳥族の領地で、金髪ロン毛男のツヴァイルの息がかかっている。
桜の巨木の神域には、王族と番候補者以外は入れない。そこへたどり着くまでは、追手に見つからないように、油断してはいけないとオルさんは言っていた。
洞窟は俺が迷い込んだ時と同じで、所々淡く光っていて、ライトがなくても走れる程度には明るかった。
シタッシタッと俺と銀様の足音がする。
銀様は道を知っているようで、俺を先導してくれた。
しばらく行くと、洞窟の終わりに来たのだろうか、前が明るくなってきた。曲がり角の壁沿いに銀様が止まり、耳をピクピクと動かし、前を見つめる。俺もそれにならってしゃがみ、周囲を警戒する。
鳥の羽ばたきのバサバサという音が聞こえる。
「いたか?」
「いない。ここら辺には足跡もない。」
「南5区で足跡が途絶え、範囲を広げて探索中です。」
「やはり洞窟内に潜んでいるのではないでしょうか。中は閣下の許可がなければ入れませんし、南玄関周囲には痕跡がありませんでした。」
「ここら周辺にも足跡がないなら、まだたどり着いてないのかもしれないな。」
「よし、引き続き探索継続。俺は報告をしてくる。」
「任せた。それではっ。」
バササッと飛び立つ音がしたが、銀様は動かない。俺は、銀様の背中をもふもふしながら、待機。
ここの人たちは鳥族と言うだけあって、鳥をうまく使って、暮らしているんだろうな。
鳥を操って空を飛べるから、こんな山に閉ざされた場所でも生活に困らないんだろう。
そんなことを思いながら、しばらくもふりながら待機していたが、なんの音も聞こえないのを確認して、俺は立ち上がり、慎重に前に歩く。銀様も俺の後ろを静かに歩く。
洞窟の出口にたどり着くと、銀様が前に出て、鼻をひくひくさせたり、耳を動かし、上を見つめた。
鼻が利くって便利だよなぁ。俺はそんなことを思いつつ、銀様の後ろに待機した。
銀様が、突然俺の方を向く。
追っ手かと身構えたけれど、銀様が俺のバックパックに前足を置き、カリカリと引っ掻くので、力を抜いた。
「ん?バックパックに何か入れたいの?。」
俺はバックパックを下ろして、銀様に献上してみる。すると銀様の金目が光り輝き、サイドポケットが光る。
「え?、銀様の魔法?。」
「グルグル。」
銀様は、オルさんがくれたコウモリマークの袋を咥えていたんだけど、それをサイドポケットに押し付ける。
「いや、さすがにそれは入らないでしょう?。」
俺のバックパックよりも二回り大きいんだよ?サイドポケットなんて、ハーフサイズのペットボトルが入れば良いとこのサイズだぞ?。
それでも、銀様はかまわずサイドポケットを前足でカリカリする。
銀様の気が済むなら、と、ポケットのジッパーを開けると…、開けるとそこには何もなくて。
「え?。俺の入れてあった方位磁針は!?。」
ポケットの中は空っぽで。
銀様を見ると、銀様は鼻をフンスと鳴らすだけ。
ポケットに手を突っ込んでみると、頭の中にリストが浮かぶ。
・古い方位磁針 1
・古いメモ帳 1
・古い筆記用具 1
古くて悪かったな…。方位磁針が欲しいと思ったら、指に方位磁針が当たり、俺の手と共にポケットから出すことができた。
これってあれか?RPGのアイテムボックス的な!?
「銀様、凄いね!?。こんな魔法も使えるんだね。」
オルさんのいるところでは、この魔法の存在を知らせなかったと言うことは、人には内緒の魔法なのだろうか。異世界トリップ小説でも、内緒にしていることが多いしね。
「銀様、ファンタジー感ましましだね。俺、感動しちゃったよ。」
かくして、俺のサイドポケットは四次元ポケットよろしくなんでも収納できちゃうポケット(どうやら秘密?)になったのだった。
余談だけど、あのコウモリマークの袋をサイドポケットに少し押し込むと、自然に中に吸収されていって、リストには、
・オルさんの袋セット 1
と、なっていた。
それで良いの!?。
* * *
その後、洞窟を抜けた銀様は、迷い無く森の中に入り、道なき道をくだって行くので、俺もそれについてくだる。
時々茂みに突っ込み枝や葉が引っかかるけれど、インナーのお陰で皮膚を傷つけることはない。ありがとう、インナー。
けれど、悠長にはしていられない。
あの人達の会話から、俺の逃走ルートがばれている。ここの足跡も見つかったら、それをたどりながら、追い付かれてしまうだろう。
足に力をいれ、バランスを取りながら、斜面をくだる。やがて細い獣道があり、そこをどんどんくだっていくと、だんだんなだらかな斜面となり、山と山の間に出る手前で、銀様が止まった。
銀様が上を気にするように見上げている。鼻と耳もピクピクと動いている。
俺も木陰に身を潜め、空の気配を探る。あの巨大な鳥の姿は見えない。
「グルルル。」
俺が先に進もうとすると、銀様が鳴く。行ってはダメなのだろうか?
俺が銀様を見ると、銀様は尻尾をふさんふさんと揺らしながら、「ウォン。」と、小さく鳴くと駆け出した。
俺も銀様にならって走る。
反対の山に移動し、一気に森の中を駆けあがる。
銀様に距離を離されないように、俺は必死に獣道を走った。
再び森が深くなってくると、道がなくなってきて、俺は息を乱しながら、上がると言うよりは、木の根を掴んで登ると表現した方が良いような状態だった。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
それでも俺は必死に走る。
オルさんは神域の山まで、俺の足だと早くても一日はかかると言っていた。時計を見ると正午を過ぎたころだった。。
まだ2時間かそこらなのに、情けない俺。
銀様が俺を振り返るけれど、俺は首を振る。今止まったら、動けなくなりそう。
その後、木立の重なり合う中に岩場が見えてきた。
銀様はその中の1つの岩の窪みに俺を誘導する。
良かった、ここなら休息が取れそうだ。
俺は岩陰に身を潜めると、バックパックを下ろし、銀様用にお皿に水を入れ、自分も水分補給をした。
はー、生き返る。
俺と銀様は軽い昼食を取ると、また、移動を開始した。
俺の移動した痕跡はどうしても残ってしまう。それを見つけられて、辿られたら、銀様は逃げられても、俺はすぐ追手に捕まってしまうだろう。
神域に入らなければ、安心はできない。例え神域に入っても、あの巨大な鳥に捕まったらアウトだ。
がんばれ俺!
もはやトレランではなく、完全に山登り状態だが、足場を確保しつつ、懸命に登る。
「見つけた!逃亡者発見!!」
甲高い声が聞こえ、俺の身体が震えた。
とうとう俺たちは神域にたどり着くことなく、見つかってしまった。
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