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第36話 決意 sideL
この神子は規格外と、改めて思う。
なぜ自らピンチを招くのか。
鳥族の第四王子を、幼いからと、かわいそうだからと一時の感情のまま、敵地に帰す愚かさが分からないわけはないと思っていたが。
まさか、このようなことまで覚悟の上で、あれを帰してやるとは、気概があると言えば良いのか突き抜けていると言えば良いのか…。
今、神子は俺に縛り付けたロープに手を絡ませ、俺を頼りに走っている。と、言うか、気を失いかけている。
厄介なことに、休ませたくても俺が止まると起きて、また走ろうとするのだ。
そもそも一晩中走ると言い張るところに、まず無理がある。
そもそも、猿族の外道に襲われたショックで失声症であったし、ストレスから発熱していたのはつい昨日のことだぞ。
心に過渡なストレスをためたからだと、誰が見ても分かるだろう。なぜそれを本人が分からないのか!。
俺の右側の重みが増してきた。やっと眠りにつき始めたのか?俺は、少しずつ、少しずつ、速度を落とし、ゆっくりと止まった。
止まるより先に神子が倒れる。
地面にぶつかってしまうと思ったとき、自然と変身が解け、人の姿に戻れた俺は、神子を抱き止める。
俺は、神子から付与された空間魔法を発動し、周囲に結界を張る。それから収納空間から毛布を取り出して神子を包み、自身に衣服を身に着けた。
毛布ごと神子を抱き上げ、木の根もとに身体を預けると、神子がモゾモゾと動く。
自身の収まりの良い場所を探しているのだろう。仕草がとても愛おしい。
やがて自分の場所を見つけると、満足そうに、にっこりと笑顔を俺に披露して、再びすうすうと寝息をたて始めた。
「おまえね、こんなに無防備でどうするんだ。頼むから、俺の前だけにしてくれよ。」
「ん、お、…、zzz」
「ふふふ、おまえの名前を教えてくれ。おまえの名前を早く呼びたい。」
俺は、つい、いたずら心で耳元で囁いてみる。
「ん…。俺の名前は、海里だよ。」
「ふふ、知らない人に教えて良かったのか?。」
神子は目を閉じている。寝ぼけているのか?
俺はカイリの目尻と頬と唇の横にキスをする。
「ん、お兄、さんでしょ。陽くんちの、匂いするから。お兄、さんは、もう、知っている、人だ、から。」
「…。ようくんとは、お前の恋人か?。」
俺の心が一気に冷め、つい、声も低くなる。
返事を急かしつつ反対の目尻と鼻と唇の横にもキスをする。
「ふふ、陽くんは、、、。さくら組の男の子だよ。ふふふ。」
「ふん。この寝坊助が。」
寝言に返事をしない方が良いと思いつつ、思いがけず名前が知れた嬉しさが先に立ち、神子を構うことがやめられない。
その形の良い唇が開く隙を狙って、口の中に舌をいれる。
「ん、ぁ、おに、お兄さん、の、ぁ、ぁ、名前は?。」
神子の歯列をなぞり、口蓋をなぞり、舌を擦り合わせると、お互いに刺激されて、唾液が溢れる。
神子の唾液をすすり、飲み込むと腹の奥が熱くなる。俺の唾液も神子に飲ませる。
「俺の、名前は、レオンハルトだ。」
「レオさま?」
「ふっ、様はいらない。」
「レオさん?。」
「さん、はいらない。」
「レオ…、ぁ、ぁ、ん、ぁ。」
神子に名前を呼ばれると、全身が喜びで震えた。
なんだ?。この感覚は?。
「んぁ。ぁ、レオ。
俺の名前、も、ぁ、呼んで。
ん、海の里って、ん、ん、書いて、んぁ、ぁ、かいりって、読むんだ。」
「ん、良いのか?。名を呼んでも。もはやお前を手放せなくなるぞ。」
「俺、俺は、、、お兄さん、、の方が、、、きっと、、、、キライに、、なるよ。」
「ふ、このバカ者が。」
「ふぇ、もう、キライ?。はゃ、、ふ、ふぁ…。」
海里の閉じられた目から、涙が溢れる。
全くこの子は…。こんなに愛しい存在が。
愛しいと心の底から感じられる存在があることを、俺は知らなかった。
「海里、泣くな。海里。お前がとても愛しいよ。」
俺はそう言い、海里にキスをし、全身を強く抱きしめる。
「あ、あ、あ、な、なんか、熱い。良い匂い…。はぁっ、はぁっ。」
海里が発情し、官能的な匂いが俺の性感を刺激する。
できればこのまま全てを奪ってしまいたい。
愛しいからこそ、それはしてはいけないだろう。
「レ、レオ、れぉ、ぅ、ぅ。」
「海里、泣くな。お前が好きだ。お前を愛している。」
俺は、強く、強く海里の身体を抱き締め、流れる涙にキスをすることしかできない。
やがて、海里は深い眠りへと戻っていき、発情も収まってきた。
俺は。
今まで、どうでも良いと思ってきた。
呪いを受けたことも、廃嫡されたことも。番のことですらも。
だが、海里が欲しい。これを手にいれるには、力が必要になるだろう。
これだけは譲れない。
そのために、まずは、俺は呪いを解く。
俺は決意を新たに、この愛しい存在を胸に抱きしめ続けた。
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