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第37話 空の旅

「うわぁぁぁ。」  俺は今、巨大な鷹の背中に乗せてもらって、空を飛んでいる。  景色をゆっくり見たいけれど、飛ぶスピードが早すぎて、空気抵抗も強くて、落とされないようにしがみつくので必死だ。  神域でもあるこの霊峰に入れるのは、王族と神子と番候補者だけ。その王族や番候補者も獣の姿でしか入れない。魔物や一般の人は入れない。山に生息する生物や、力の弱い魔物は入れるんだって。  俺と銀様は霊峰を登山する気満々だったんだけど、ツヴァイルは、空から行けば良いと提案してきた。何故なら、山の中で獣化した鷹は動きがどうしても制限されてしまうからね。  先に桜の宮で待っていてってお願いしたけど、銀様が一人で走ってくる方が断然早いからって。  まぁ、そうだよね。  ツヴァイルも、俺を背中に乗せてくれるって言うし、銀様と離れたくなかったけれど、俺のわがままで非効率なことはできないもんね。  かくして、あと数時間かかる予定だった、桜の宮でまでの旅は、あっという間に終わろうとしていた。 「ピルルルルルル。」  ツヴァイルの鳴き声と共に高度が下がってきたので、もう桜の巨木の頂に着くのが分かった。  本当にあっという間だなぁ。と、俺が思っていたときだった。 「ピーーーッ。」  ツヴァイルの鋭い鳴き声と共に鳥の身体が揺れた。  安定して飛んでくれていたのに、急に向きを反転させ、右に大きく傾く。  俺は、振り落とされないように、手綱代わりのベルトをしっかりとつかみ、足に力をいれた。  強い光がツヴァイルの横を走り、ツヴァイルは身体を傾けながらその光から逃げる。  誰かに攻撃されているのか?  何度も強い光がツヴァイルの身体の近くを走り、空気が揺れた。 「うっわ。」  ツヴァイルが急上昇する。俺は、そのGに耐えながらベルトにぶら下がる。  ツヴァイルが左に旋回しようと身体を傾けたとき、ツヴァイルの翼を光の矢が貫いたのが見えた。 「ツヴァイル!!。」  俺が叫ぶのと同時に、ツヴァイルの身体が大きく揺れた。  ドスッ、ドスッと言う、鈍い音と共に身体を揺らしたツヴァイルは、そのままコントロールを失って、森林のなかに墜落してしまった。 「うわーーっ!!。」  俺は、ツヴァイルが地面に落ちた衝撃で身体が浮き、土の上に投げ出されて全身を打ち付けた。 「ツヴァイルっ!!」  俺は、痛みに耐えながら背中のバックパックから、回復ポーションを取り出してツヴァイルのもとに駆けつけた。 「ツヴァイル、大丈夫か??。」  返事がなく、鷹の姿のまま、身体も動かない。ツヴァイルは気を失っているようだった。 「ツヴァイルっ、ツヴァイルっ。」  俺は、バカみたいに名前を連呼しながら、鷹の顔を撫でる。  周囲の血の匂いが、ツヴァイルの重症を確信させる。  俺は、瓶の蓋を開け、ツヴァイルの口に薬を突っ込もうとした。 「おっと、その薬飲ませたら、すぐにでもこいつの心臓をえぐり出すぞ。」  低い声とその内容に、俺の身体がびくりと震えた。  振り向くと、そこには、頭に二本の角を生やした青い髪の鬼が居た。  どくりと俺の心臓が動いて、身体が熱くなってくる。 「お?。易いなお前。  お前のために傷ついた仲間を放ってもう発情かよ。」 「なっ、違うっ。」  鬼は、蔑んだ目を俺に向けながら近づいてくる。 「く、来るなっ。」  ツヴァイルも大きいと思ったけれど、この鬼はそれ以上に大きく、手足もがっしりとしている。手に大きな槍を持っていて、今にもツヴァイルの心臓を突き刺してしまいそうだ。 「く、薬を飲ませたいんだ。」 「おまえさんがおとなしく、俺の番になるなら飲ませても良いぞ。」 「俺は、まだせ、せ、成人じゃないから番になれないよ。それに俺は男だから、あなたのことをあ、愛せるか分からないよっ。」 「ふん、じゃあ、成人になるまで力の付与だけしてもらおうか。契約できる年になるまで、俺のペットになることだな。」 「そんな約束はできないよ。俺にはやりたいことがあるんだ。」 「はっ、ヤリたいことねえ…。」 「な、な、な、誤解だからなっ。俺はっ!元の世界に戻りたいんだ。誰とも番わないっ!。」 「ぷっ。はっはっ。そんなにムキにならなくても。  まぁ、とりあえず力の付与をしてもらおうか。」 「付与したら、この鳥を助けてくれる?。」 「ああ。助けてやるぜ。」 「じゃ、じゃあ、俺の血で良い?。たくさんはあげられないけれど。」 「ああ?、俺にはそんな趣味はないぜ。それにな、単に体液もらっても、付与はされないんだよ。お前が発情して、俺を求めなければな。」 「うっ、それは、俺が嫌だ!。  それに、早く薬を飲ませないと、この鳥が心配だよっ。」 「ああ?、それじゃ、交渉決裂だな。そいつは死に、お前は俺のペットだな。」 「わ、分かったよっ。もうっ、俺がやれるものならやるから、この鳥を助けてっ。」 「ふん。ヤリまくりで結構なことだな。災厄の神子サマは。」 「なっ!。なっ、なっ、なっ。違うしっ。そのヤルじゃないしっ」 「わっはっはっ。ほれ、早く薬を飲ませてやらんと、取り返しがつかなくなるぜ。」 「うーっ、も、もうっ!。」 「わっはっはっ。牛かよ。牛の神子かよ。くくくっ。」 「ぜんっぜん、面白くないしっ。」 「くくくくくっ。」  俺が、薬をツヴァイルにの飲ませる間、鬼は失礼にもずっと笑っていて。  それでも、薬の効果なのかツヴァイルの呼吸が安定してきて、やっと俺は安心することができた。  突然、ドスンっと、鈍い音がして、俺は驚いて顔をあげた。  見ると、鬼が持っていた大きな槍が、ツヴァイルの左の翼を通して地面に突き刺さっていた。

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