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第40話 ことばの壁

「だからぁ、俺は、悪かないと思うんだ」 「てめ、どの面下げて、いけしゃーしゃーと。」 「2人とも声がでかい。神子が起きる。」  誰かの大きな優しい手が俺の髪の毛を撫でて、俺を包んでくれているから、聞きたくない低音ボイスが聞こえてきても、俺は、まだ寝ていられる。 「だいたい、悪名高い災厄の神子とそれに与する獣人が目の前にいれば、討つ。当然のことじゃないか。それをこの神子がシャーシャ―山猫のように怒るから、ちぃっとばかしお仕置きをする。これも当然のことじゃないか。」 「んなわけねぇだろうがっ。鬼族の仕置きは破廉恥過ぎだ。こいつ、昨日まで失声症になってたんだぞ。それをおまえこんなになるまでいじめやがって。」 「破廉恥って…。  だから、俺だって最初はここまでやるつもりはなかったんだよ。この神子、意地張って謝ってこないからよぉ。」 「ったく。銀狼が駆けつけたから良かったものを、おまえこの中の国を戦火に巻き込むところだったんだぞ。 「まさに災厄だな。はっはっは。」 「はっはっは、じゃねえっての。で、これからどうするんだ?。銀狼。」 「予定どおり桜の宮へ向かうさ。この子を連れて。  ツヴァイルのその翼では、もう運べないだろう。歩いて上るよ。」 「ぐ、すまねぇ。」 「いや、こうして神子も無事だったのだから。  そうだな…、二人とも、二度とこの神子に手を出さないと誓って貰おうかな…。」 「「それは、約束できねぇーぞ。」」 「ふ、分かっているさ。業腹だがこれも定めだろう。」 「まだ、誰を選ぶかは分からないんだからな。俺はおまえさんに負けたから、今回に限りおまえさんの言うことはきくが、神子を譲る気はない。この処女神子、おれも気にいっちまったからよ。  鳥の。おまえさんも、この銀狼に負けたクチかい?。」 「い、いや、俺は、…、…、…。」 「ふふ、ツヴァイルは神子に倒されたんだ。」 「まじか…。鳥族最強のおまえさんが…。」 「うっせっ。ちぃっと油断してたんだっ。」  * * * 「銀様っ!?。ツヴァイル!!。」 「ウォン。」 「ピィッ。」  俺は、さっきから俺を包んでくれる匂いと声の主がが、銀様とツヴァイルだと思い出して飛び起きた。 「お、起きたな。処女神子。」 「うわっ!!」  俺は、聞きたくない低音ボイスに鳥肌を立てながら、銀様に抱きつく。 「グルル。」 「あー、いや。悪かったな。もう血の呪縛は解除してあるから、おまえさんに無理強いなことはしないさ。」  俺は、銀様の首に抱きついたまま、鬼の方を見る。  すると、鬼は大きな巨体を小さくして向かい側に座っていた。  その横に鷹のツヴァイルが立っているのが見えた。 「ツヴァイル!。ごめんなっ。俺のせいで逃げられなかったんだろう?。攻撃を受けて、や、槍が。  槍が刺さったところは?。回復薬飲んだ?。もう痛くない?。飛べる?。」  俺は、ツヴァイルに駆け寄ると、羽をさすりながら、翼の怪我を確かめる。 「ピルルルッ、ピールル、クルルッ。」  大丈夫だ心配すんなって言われているみたいで、翼もパタパタ動かしてみてくれているけれど。けれど。 「やっぱり痛いんだろう?。無理しちゃダメだよ。」  右の翼の動きがぎこちない。患部には触れないように気を付けながら傷を探す。 「俺の槍は特別製でね、回復薬で傷は治っても、2、3日は機能が回復しないのさ。そうじゃないと戦にならないからな。」  青髪の鬼は、そう言うと、座ったまま腕組をした。 「なっ、酷いっ。回復薬で治らないなんて。ツヴァイル、空飛べないの?家にも帰れないじゃないか。獣に襲われたらどうするんだよっ。」 「ピーピーわめかなくても大丈夫だ。一人で飛んで帰る程度なら問題ないはずだ。それにこいつだって猛禽類。そこら辺の獣人、魔物よりよっぽど強いわ。」  相手に怪我を負わせたくせに、面倒くさそうに話すその態度が許せない。 「そんなの分からないだろっ。だいたい鳥は翼が命なんだ。墜落した鳥の大切な翼を更に貫くなんてっ。鬼っ、脳筋鬼!。」 「俺は鬼族だから鬼なんだよ…。  な?。こんな具合で突っかかってくるんだよ、この処女神子は。」  鬼が銀様とツヴァイルにあきれた様子で訴える。 「なっ、なっ、俺はっ、男だからっ、処女じゃないって言っているだろうっ。だいたい、なんだよっ、恥ずかしい言い回しばっかりしてっ。このセクハラ鬼っ。  俺の名前は海里って言うんだっ、海里って呼べよっ。」 「へーへー。カイリね。  じゃ俺のことも通称ではなく、名前で呼んでくれ。俺は、ノウキンやセクハラって名前じゃなくて、アッシュだ。」  くぅっ、突っ込みを入れたいけれど、きっと分かって貰えない!。  俺は、拳を握ることしかできなかったのだった。  

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