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第41話 桜の巨木を目指して

 結局のところ、俺は、銀様と一緒に、桜の巨木を目指して走っている。  青髪の鬼のアッシュが、俺を担いで登山するのが早いと提案してきたけれど、あんなセクハラ鬼に担がれるのなんて、絶対嫌だったので、お断りをした。  翼を負傷してしまったツヴァイルは領地に帰ることを嫌がって、桜の宮に行きたいと言うし、アッシュも付いてくるって言うし、ちょっと困っちゃったんだけどね。  結局怪我をさせたアッシュがツヴァイルを担いで俺たちの後ろを付いてくることになったんだ。 「ツヴァイル、本当に大丈夫??。傷は痛まない?。」 「ピールルル。クルルッ。」 「だから、傷はないっつーの。機能を少し奪っただけだ。」  「だから、怪我を負わせたくせに、その態度はダメだろう。疲れた誰かさんが、丁寧に運んでくれているか心配なんだよ。」 「はっ、カイリの遅い足になんぞ、大鷹背負っていても負ける気はしないぜ。」 「むかっ、その言い方。」 「ピルルッ。クルルルルッ。」 「ウォン、ウォン。」 「もー、ツヴァイルと銀様まで。俺だって頑張ってるよっ。」 「おまえさん、その二人の言ってること、分かってんのか?。」 「人化したツヴァイルの言葉は分かったけど、獣化している今はわかんないな。でもなんとなく?。フィーリング?。」 「だよなぁ…。  おまえさんのそのフィーリング。あんまり意味ねぇよ?。」 「むっ。アッシュは分かるのか?。」 「いや、分かんね。」 「分かんないのかよ。あ、でも、シマ君は言葉を話していたよ。」 「鳥族は器用だからな。中には獣化したままでも言葉が話せる奴もいるんだよ。あとは、あれだ、念話。念話は能力だから、できる奴とできない奴がいる。俺はできる。こいつらもできる。よって俺達は獣化している異種族の鳴き声は分からなくても、話しはできる。」  くっそー、どや顔しやがって。ムカつくぞ! 「おう!それが念話な。なんだ、できるじゃないか。」  え?。え?。俺喋ってないよ? 「あー、カイリよ、ちぃと訓練しなきゃ、考えていること駄々漏れだな。」  うっそ、俺の考えてること、伝わってるの?、いつから??。ずっと前から?。  じゃ、じゃあ、銀様とも話せてるのか?。 「カイリ、うるっせいわ。頭の中に響かせるのやめれ。」  むかっ。 「くくく、おまえさん、ほんと見かけと違って、意地っ張りな跳ねっ返りだな。念話できるようになったとたんこれかい。」  う、笑われた…。 「ぷ。そこで落ち込むのか。本当に面白いやつだなぁ。  仕方ない、俺様が念話のコツを教えてやるぜ。」 「う、くっそー。よろしくお願いします。」 「わはは、任せなさーい。」  …こうして俺は、めっちゃ不本意ながらも、念話のスキルを習得した。  念話はスイッチのついた糸電話みたいなもので、話したい人に糸を伸ばして、お互いにスイッチをオンにすれば話ができる。普段はみんなオフにしているから、糸が繋がるときに、リンリン(俺のイメージ音ね!)と相手からの着信音がして、オンにして話すんだ。  一度の糸の長さや数は、その人の能力次第。未熟な俺は、スイッチを無視して、みんなに俺の考えていたことを強制配信していたようだ。は、恥ずかしい。  俺がセクラハラ大王のアッシュから、念話のコツを教えて貰ったのには、実は大いなる野望があったのだ。  それは、言うまでもなく、銀様と話をするため!。  そのためならば、俺はセクラハ大王に頭を下げることも厭わないのだ!(嫌だったけども。)  …なんて、軽く思っていたのは、銀様と話ができて、喜んでいた最初だけ。銀様の身の上を聞いたら、そんな浮かれた気持ちでいた自分が恥ずかしくなってしまった。  おれって、本当に自己中でダメなやつなんだ。  * * *  俺はアッシュから念話のコツを教わると、早速銀様に糸電話の糸を伸ばした。  まだ慣れていないから、二人に勝手に配信しないように注意をしながら、銀様に語りかける。 〔銀様?。聞こえる?。〕 〔ああ、聞こえるぞ。〕  少し低めの落ち着いた声が耳をくすぐる。 〔うっわ、本当に銀様?。銀様やっぱり話せたんだね。俺嬉しいっ。〕  〔ふふっ、俺も嬉しい。おまえとこうして話せるようになるなんてな。〕 〔銀様、いつも俺を助けてくれてありがとうござました。昨日はロープで縛っちゃったりしてごめんなさい。俺、いつも迷惑ばかりかけちゃって、本当にごめんなさい。〕 〔ふふ、海里にお礼や謝罪をされるようなことはなにもしてないさ。俺がしたくてしているんだ。気にしなくて良いよ。〕  うう、銀様優しすぎる。俺を甘やかしちゃダメだよー。 〔ね、銀様。銀様はなんで人化しないの?。本当の名前は?。年はいくつ?。どうして桜の宮に用事があるの?〕 〔ああ。俺は獣化の呪いをかけられていて、強制的に獣化させられているんだ。だから、自分の意思で人化できないし、本当の名前を名乗ってもトラブルになるだけだ。今まで通り銀様で良いよ。〕 「え、そ、そんな。呪いを解けばもとに戻れるの?」 「おい、カイリ声に出てるぞ。」 「あ、ごめん。」  しまった。驚きのあまり、アッシュに普通に謝ってしまった。 「だから、声が駄々漏れだ。ちなみに俺に普通に謝るのは悪いことじゃないぞー。」 「う…。」  へ、平常心、平常心。糸電話、糸電話。スイッチ、スイッチ。 〔だ、誰が銀様に呪いをかけたの?いつから?〕 〔ふふ、切り替えがうまくなってきたな。  俺に呪いをかけたのは桜の宮だと聞いている。三年前くらいになるな。〕 〔さ、三年間も…。銀様、辛かったね。〕 〔たった三年だ。実家はすぐに追い出されたが、正直この姿のままの方が何かと楽でな。気に入っていたよ。〕 〔そんな…。〕  確かシマ君が、より人の姿に近く変身できない獣人は蔑まれると言っていた。じゃあ、銀様はとても不当な扱いをされたのではないだろうか?  実家も追い出されて。きっと悔しい思いもいっぱいしたよね。 「お、俺!。桜の宮様に、呪いを解いて貰えるように一緒にお願いするから!!。絶対、呪いを解いて貰おうね!。」 「カイリよ、声出てるぞ。」 〔ふふ、ありがとう海里。頼りにしているよ。〕  俺の目的が一つ増えた。  家に帰る方法を聞くこと。  そして、銀様の呪いを解いて貰うこと。  俺は決意を新たにする!。  あの後、銀様が穏やかな大人な声で、「様はつけなくて良い。銀狼と呼んでくれ。」と、言ってきたけれど、銀様って言う方が慣れてしまっている俺は、丁寧にお断りをしたのだった。 「だから、カイリよ。駄々漏れでうっせいわ。」 「ピルルルル。」 「ウォン、ウォン。」

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