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第42話 知り合いとの再会
だんだん斜面がきつくなり、頂きに近づいてきているのがわかる。
俺は息が切れて、呼吸が乱れているのに、銀様もアッシュも平気そうだ。アッシュは、自分の背丈ほどの大鷹を背負っているのに…。
この霊峰は神域だってオルさんが言っていた。空からだと分からなかったけれど、言われてみれば、空気が澄んでいて、とても静かだ。
最初にここに来たときは、頂以外は薄暗くて空気が重くて、綺麗な森なんだけどその雰囲気に怖さを感じていた。現金なもので、今は頼もしい旅の仲間と一緒だと思うと、ちっとも怖くない。
まぁ、頼もしいと言うか、時々セクハラ、パワハラ獣人達だけどね…。
やがて、森林も明るさを増してきて、頂に着いた。突然開けた平地に、あの桜の巨木が立っていて、その上に俺の車が、ない!?。
「あれ?。俺の車が無くなってる!?。」
俺は、慌てて桜の木へと駆け出した。
〔だめだ!。〕
「あ、待て、カイリっ。」
走り出した俺にレオとアッシュの警戒した声がする。
「ウォン!!。」
銀様が俺の前に回り込んで、俺とぶつかった時だった。
ズガン!!
大きな音と共に、目の前を稲光のような光が落ちて、空気が震えた。
俺の行く手に黒く焼け焦げた穴ができている。
「え?。なに?。」
銀様が止めてくれなかったら、俺は死んでいたかもしれない。
「おまえが災厄の神子か?。」
桜の巨木の影から現れたのは、濃紺の髪をなびかせた、いなばの白うさぎの絵本に出てくる、オオクニヌシノミコトのような服装の男性だった。
「あれ?。坂又さんですよね?。」
俺の知っている坂又さんは、長髪ではなかったけれど、あの顔は絶対坂又さんだ。
「え、か、海里くん!?。なぜここに。海里くんが災厄の神子?。」
坂又さんも驚いているようだ。
「誰だ?。知り合いか?。」
アッシュが、森の中にツヴァイルを置いて、駆けつけてくれた。
「えっと、俺の母さんの、再婚相手。」
「はぁ??。」
アッシュだけでなく、銀様もこちらを振り向く。そりゃあ、ビックリするよね…。
「災厄の神子が海里くんとは知らなかったが、桜の御神木を傷つけたことは許されることではありません。
申し訳ないが、罰を受けて貰いますよ。」
坂又さんはそう言うと、ふわりと宙に浮き、その両手からビカビカッと眩しい、稲妻を俺たちの方へ放った。
銀様の金色の目が光り、氷の盾が現れたかと思うと、その盾は、こちらへの攻撃を防ぎながらも、そのまま坂又さんの方へ氷の柱となって突き進んだ。
「良く分からないが、命狙われたら、黙ってられないな!。」
そう言いながら、アッシュがどこから出したのか、ツヴァイルを刺したあの長い槍を片手に、飛び出した。
と、同時に銀様も駆け出す。
「ちょっ、待って。誤解だ坂又さん。俺の話を聞いて。」
「ほほう、元気が良いですね!。しかし、守りが弱くなりますよっ。」
坂又さんは駆け出した二人に意識が向いていて、俺の話を聞いてくれそうにない。
坂又さんは、クロスしていた両腕を素早く左右に開いた。その指先の方向に沿って、突風が吹く。
銀様とアッシュはひょいと避けたまま、坂又さんへの突進をやめない。でも、その風は威力そのまま、こっちに来るんだけどっ。避けなきゃっ、そう思っても俺にできることなんて、その場に身を伏せるだけだ。絶対攻撃があたる!!。
「ピーーーーッ。」
坂又さんが繰り出していた風を感じた瞬間、ツヴァイルの鳴き声が聞こえて、俺の目の前に土の壁が突き出た。その壁が風を防ぐと、壁はそのままガラガラと崩れ落ちていった。
「ツヴァイルありがとう!!。」
ツヴァイルにお礼を言っている間に、二人は坂又さんに追い付き、アッシュが槍で坂又さんをなぎ払い、その槍を避けた坂又さんの動きを読んで、銀様が雷を落とした。
凄い連携プレイだ。
「まだまだ、もう一丁。」
坂又さんは、その雷を避けつつ、俺に向かって水のつぶてを放つ。
これは、あれだ。ツヴァイルの石のつぶてと似ている。
「ピーーーーッ」
俺は、攻撃を目で追えず、その場に立ちすくむ。
ツヴァイルは飛べないのに、俺の近くまで駆けつけてくれていて、もう一度土の壁を出してくれた。
水なのに、土の壁を突き破り、こちら側に飛んでくる。それをツヴァイルが身を呈して俺をかばってくれる。
「ツヴァイル!!。」
威力はいくぶんか落ちているかもしれないけれど、ツヴァイルの翼にまた、水のつぶてが突き刺さる。
見れば、銀様やアッシュも黒い光のロープみたいなもので身体を縛られ、身動きがとれないみたいだ。
「やめてください!!。坂又さんっ。どうしちゃったんですかっ。あなたはこんなことする人ではないでしょう!!。」
「それはこちらの台詞です。せっかく櫻子 さんと一緒になれたのに。あなた、神子なのに、どうして櫻子さんの桜に車なんか乗せちゃうんです?。桜の木は繊細なんですよ?。傷から病気になっちゃうんですよ?。あなた、息子なのに、どうしてそんな酷いことをしたんですか??。」
坂又さんはそう言いながら、ポロポロと涙をながす。
「坂又さん…。母さんもこっちにいるんですか?。」
坂又さんは泣くばかりで、返事をしない。まさか、まさか、まさか…。
「ねぇ、坂又さん、母さんは?。母さんはどこにいるんですか?。母さん??。どこにいるの?。母さん??。」
俺は、思わず母さんに呼び掛ける。
「はぁい、ここにいますよ。海里久しぶり。元気にしてた?。」
「櫻子さん!?。」
「母さん??。」
俺と坂又さんはのんきな母さんの声に、同時に声をあげた。桜の巨木の近くにふわりと現れた母さんは、RPGに登場する卑弥呼みたいな和装に身を包み、にこにこ微笑みながらこちらに手を振っている。
「さ、櫻子さんっ。大丈夫なんですか?。怪我は?病気は?」
「え?。やぁね、どこも悪くないわよ。」
坂又さんの慌てっぷりは、やっぱり俺の知っている坂又さんで…。
「おう、説明して貰おうじゃないか?。」
黒い光のロープにがんじがらめのアッシュと銀様、そして血をながしているツヴァイルが眉間にシワを寄せて、こちらを見ていた…。
「あらあら、しーちゃんに三人がかりなのに負けちゃったの?。いくらしーちゃんが海人王だからって、弱すぎじゃあないかしら?。」
「海人王だと?。
なんでこんなところに海人王がいるんだよ?。」
アッシュは呆れ半分、驚き半分と言う感じだ。
「わ、私は、家出してしまった櫻子さんを探しに、ここへ来たんですよ。途中、櫻子さんの御神木が災厄の神子に傷つけられて、余命幾ばくもなく床に臥せっているって聞いて…。」
そう言うと、またポロポロと泣き出す。
反対に母さんは冷めた、ちょっと不機嫌な表情をしている。
「どうせ、そう言い含められた相手は、あなたの浮気相手でしょ?。私、もうあなたと再離婚するって決めているの。この浮気者!。」
「そ、そんなぁ。櫻子さん…。」
「第一!。なに自分の息子に攻撃してるのよ。王子達が守ってくれてたから良かったものの。あなたが自分の息子を殺すような人でなしとは思わなかったわ。」
「で、でも、翠子 殿が…。」
「翠子の言うことは信じるけれど、私の言うことは信じられないのね。
そもそも、あなたがそんなだから、海里がひどい目に遇うんじゃない。そうならないように、異界で暮らしていたのに。やっぱりあなたと再婚なんてするべきではなかったわ。
何が櫻子さんと海里君は私が守ります。よ。守るどころか実の息子を攻撃するなんて、あなた最低な人ね。」
「ちょっ、ちょっとストップ。母さん、今、重大発言。俺の本当の父親って坂又さんなのか?。」
「そうよ。知らなかったの?。」
母さんは当たり前のように、あっさりと肯定する。
俺はきっと、今の坂又さんの表情と一緒で、青い顔をしているのだろう。
「「は、初耳なんですけど。」」
おおう、奇しくも声が揃ったのはやっぱり実の親子だからか?。
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