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第44話 桜の宮の女神

衝撃のレオの呪いの事実…。 「母さん…、俺は思わず母さんを嫌いになりそうだよ。」 「え。え。やだ。海里、違うのよ。もちろんそれだけじゃないのよ。  もともとレオン君は死の呪いがかけられていたから、そこに上書きして命だけは救えるようしてあげたのよ。」 「なんだ、それは。」  レオは呪いをかけられた心当たりがない様子で呟いた。 「レオン君。あなた翠子を怒らせたでしょう?。そのときに、やがて衰弱死する死の呪いをかけられているのよ。それをまず解かないと。私の呪いを先に解くと死の呪いが進行するわよ。」 「そ、そんなぁ。」 「呪いを解くにはどうしたら良い?。」  慌てる俺とは対照的に、冷静なレオ。 「和解するのが一番だけれど、たぶん無理でしょう。翠子も五大神の一人。同等の他の四神から、翠子の呪いが不当であると判断しても貰って、この宝玉にその神力を注いで貰うのよ。完成した宝玉を翠子に見せて、呪いを撤回させるしかないわね。  一つは、私の力を入れておくわね。」  母さんの手のひらには五つのビー玉みたいな玉が乗せられていた。透明なガラス玉に見えるそれの一つが輝き、ピンク色になった。 「ありがとうございます。じゃあ俺はその呪いを解くために、あと三神を回り、翠子様のいる柳の宮に行くことにする。海里はどうする?。」  そう言いながら、レオは母さんから五つの宝玉を受け取った。 「お、俺は、もとの世界に戻って、子ども達が進級するまで責任を持ちたい。」 「そうか。しばらく会えないのは残念だが、呪いを解いたら必ずおまえに会いに行く。」 「う、レオの呪いを解く手伝いもしたい!。」 「そうか、ありがとう。だが、こちらの世界はおまえにとって危険が多い。俺が迎えに行くまで、そちらの世界に居られるなら、そうしていてくれ。」 「確かに、俺は足手まといだったけれど…。」  俺は役立たずな、ダメな奴だ。 「足手まといじゃないさ。おまえはよく頑張っている。」  レオは俺に優しく微笑んで、頭を撫でてくれたあと、姿勢を正して母さんの方へ向き直った。 「桜の宮様、三年前、番の話をしてくださった時は海里の人となりを知ろうともせず、断ってしまい大変申し訳ありませんでした。私は海里をとても欲しています。呪いを解いた暁には、改めて海里を私の番にする許可をいただきたい。」 「ええ、海里ももう成人してるし、本人が良いと言うならば、私に反対する理由はないわ。」 「「「ちょーっと、待ったっ。」」」  俺とツヴァイルとアッシュの、声がかさなった。 「「なーに抜け駆けして話をまとめようとしているんだ。俺達も番候補者。その権利はあるっ。」」 「俺は番にならないよっ。」 「あーらら、銀狼、振られたぜ。」  アッシュがニヤリと呟く。黙れセクハラ大王め。 「俺は、レオのこと好きだよ。でも、番とかよくわからないし、契約とか、力の付与とかそう言う関係は嫌なんだ。恋愛についても俺は、同性のそう言うのに偏見はない。と、思うけれど、俺はやっぱり、異性のかわいいお嫁さんを貰いたいと思ってるしっ。」 「俺は別に神子だからおまえが良いわけではない。おまえがおまえだから良いと思っているんだが。それはこれからじっくり教えていくから、心配いらないさ。」 「う…。」 「おまえが海人王の子どもだとすれば、おまえの寿命も俺達とさほど変わらないのだろう。時間はたくさんあるんだ。ゆっくり口説くさ。」  レ、レオがニッと笑って俺を見つめる。  俺の頬が熱い。 「そそそそうだったよ。俺って坂又さんの実の息子なのか?。」 「話題を無理矢理変えるの、良くないわよ。でも、そうよ。最初の結婚をしたころ、しーちゃんが浮気をして、私は異世界に家出をしたのよ。そしたら、海里がおなかにいたの。ここの家に住んでいたお婆ちゃんに拾われて、お世話になったのよ。」 「な、なぜそれを先に言ってくれなかったのですか?私が櫻子さんをどれだけ探したと。海里くんの存在を受け入れるのは、容易いことでしたが、櫻子さんの隣に居たであろう、その(ひと)の存在に、私がどれだけ後悔と嫉妬をしたことか。」 「その挙げ句がものの数日でまた浮気。」  母さんの冷たい視線が坂又さんに刺さり、坂又さんの顔はすでに蒼白を通り越して真っ白だ。 「だから、それは誤解です。私が櫻子さん以外に心を傾けることなどあり得ないのにっ。」  親のこう言うのって、いたたまれないなぁ。子どものいないところでやってくれないかなぁ。 「それと、レオン君には悪いけれど、海里はもう向こうには帰れないわよ。」 「「ええっ!?。」」  俺とレオの声が重なる。珍しくレオが焦っている。 「私が引っ越した日、別の力に関与されて海里は連れてこられなかったの。だから仕方なく召喚したけれど、あなたが桜の御神木に車とともに現れた時に、私は御神木を守るために神力をずいぶん使ってしまったの。今までのように力を振るうには、少し力をためる必要があるわ。だから、おいそれと異世界には渡れないの。  それに海里は、もうあのこども園で退職扱いよ。代わりの人も働いているもの。」 「か、母さん、それはあまりにも横暴過ぎる!  年度途中で担任交代なんて、よっぽどの理由がなきゃあり得ないって母さんもいつも言っているだろう!。」 「私も当時は、年度末までここから海里が職場に行けるように空間を繋げたのよ。  でも、あなた三年間も行方不明だったのよ。あなたがさっき自分のこと、23歳って言って驚いたわ。あなたの時間軸が歪められてしまっていたのかも。」 「え…。三年もたってる…?。」 「そうよ、あなたなかなか来ないから、雄吾君と蒼士君が世界中探してくれていたのよ。」 「なんで雄吾と蒼士が?。あの子ども達は?」 「当時は行方不明で少し騒がれたけれど、あの時の子ども達も無事運動会を終えて、卒園してるわよ。それと、あの二人はあなたの守護者なの。ちなみに、私の守護者は雄吾君の父親と蒼士君の母親よ。私が異界に家出した時も探しだしてくれて、あのときはビックリしちゃったわ。」 「そ、そっか、無事卒園までしちゃったんだね。う、なんか悲しい…。でも良かった…。ちゃんと運動会できたんだね…。  それで、雄吾と蒼士は、今、どこにいるの?守護者って何?。」 「守護者って言うのは、簡単に言えば神子のお世話係よ。でもって、今は一週間くらい前に、東の大国の番候補者が、召喚された黒髪の神子を監禁している、と言う情報を聞いて、海里かもしれないからと、二人で行ってしまったのよ。そのうち会えると思うわ。」 「そっかぁ、お世話係っていうのはちょっと引っ掛かるけれど、雄吾と蒼士がこっちの世界にいるのは嬉しいな。」 「私があなたを召喚と言う手段で呼ばざるを得なくなった状況といい、災厄の神子の誕生とその悪評も悪意の介入を感じて気持ち悪いの。  本来、万物に力を与えられる豊穣の神子として尊ばれる立場だったのに、いつの頃からか災厄の神子と呼ばれ、地位と名誉を貶められている神子。その神子に海里がなってしまうなんて。どこまでが偶然でどこからが悪意なのか…。  正直、神力の回復していない今、あなたをこの世界に留まらせるのは不安だわ。実際、三年間もあなたは行方知れずだったのよ。」  母さんが深いため息をつく。母さん…。 「母さん、俺、向こうの世界の大切なものは、こども園の子ども達や母さん、それに雄吾や蒼士達、俺のまわりの人達だよ。俺がいなくなって心配させてしまうことが辛かったけれど、もう、三年もたっていたなんて。  子ども達が卒園して、俺の大好きな人達もこっちいるのなら、俺は向こうの世界に帰らなくても良いんだ。」 「海里…。」  母さんが、不安そうに俺を見る。そんな悲しい顔しないで。 「俺、やっぱり、レオと一緒に旅をするよ。レオの呪いを解いて貰う手伝いがしたいんだ。まあ、レオが迷惑じゃなければ…。だけどさ。  番や災厄の神子の件を別として、俺はこの世界を知りたいと思っているし、旅をするなら、その…、…レオと一緒が良いなって…。」 「俺は海里が一緒に旅してくれるのは大歓迎だ。」  手伝うどころか足手まといだと気づいて尻窄みになる俺の顔をまっすぐ見て、すかさず答えてくれるレオ。嬉しいな。ありがとう。 「カイリが行くなら俺も一緒に行く。」 「俺は、ちぃとやらにゃあならん用事があるから、それを済ましたら合流するかな。」  二人はそう言うと、母さんに向かって深くお辞儀をしてから退出した。  セクラハ大王とパワハラ俺様に敬われている母さんって凄いな…。

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